映画

ザ・インタープリター

ただ守られている女性ではなく、人には話せないある秘密の過去と悲壮な決意を秘めている国連通訳をニコール・キッドマンが、持ち味のシャープな存在感を生かして好演している。個人的には華美なドレスよりも、この映画のような働く女性らしい黒いパンツルッ…

キングダム・オブ・ヘブン

物語の核になる人間関係、例えばバリアン(オーランド・ブルーム)と父(リーアム・ニーソン)の絆とか、バリアンとシビラ(エヴァ・グリーン)の恋愛関係などの描写がやや薄い気がするのだが、撮影したシーンをかなりカットしたらしい。また後でDVDの完全版…

デーモンラヴァー

女性が罠にかかって倒錯的な世界に堕ちていくという物語ならいくらでもあるが、この映画はそれとは少し違う。主人公の女性(コニー・ニールセン)が堕ちていくのは倒錯的なサイトにアクセスしているパソコンの小さな画面の中なのだ。パソコン画面を見つめて…

交渉人 真下正義

列車がいつぶつかるか、爆弾がいつ爆発するかというサスペンスとパニックは、映画に適した題材であり、今まで色んな映画で取り上げられてきた。ただ、この映画がこのジャンルに新しく加えたものはあまりなく、過去のアニメや映画の引用からできている映画と…

コーヒー&シガレッツ

登場人物たちの多様性にまず驚く。人種、年齢、国籍、社会的地位、趣味、性格、話し方が異なる登場人物たちがコーヒー(時には紅茶)とタバコによって緩やかにつながっている。彼らの会話はいつも微妙なずれをはらんでいて、双子やいとこ、親子間の会話であ…

真夜中の弥次さん喜多さん

江戸から伊勢に向かう道程を、ぺらぺらした紙のような現実の狂騒から死の領域まで自在に行き来しながら描くしりあがり寿の傑作漫画の映画化。監督は宮藤官九郎。豪華な脇役を使ったギャグ(松尾スズキと古田新太の使い方はかなり笑えた)の連続と主役二人(…

甘い人生

フィルム・ノワールの陰影に富んだ画面に、ブラックスーツに身を包んだ直線的な顔立ちのイ・ビョンホンはよく似合っている。主人公のソヌが住む世界は濃い影が支配的な裏の世界だが、ボス(キム・ヨンチョル)の愛人であるヒス(シン・ミナ)の周りには、時…

Shall we Dance?

日本版を見ている人には文化の違いを考えながら見ると面白い映画だ。アメリカ版で好印象なのは夫婦間のやりとりが大人の男女のものであることだろう。日本版では夫が妻にダンスを教える場面で夫の態度はぎこちなく、子供の助けをかりなくてはならない。もち…

インファナル・アフェアⅢ

確かなものと思われていた善と悪の境界線が、「潜入」の存在によって揺らぎだす。潜入の仕事を全うするためには、相手の世界に染まってしまわなければならない。善の側の潜入は、凶暴な悪の仕事をこなすうちに、内にある凶暴性をコントロールできなくなる。…

コンスタンティン

物語の中に人間、天使と悪魔、そして神という三つの階級がある。(ただし神は登場人物としては登場しない。)主人公のコンスタンティンは人間だが、人間界に入ってこようとする悪魔を追い返す悪魔祓いである。コミックを原作としているが、ちゃんとキリスト…

大統領の理髪師

タイトルにある「大統領」という言葉が示すように、政治が主題になっているが、直接的に政治的メッセージを主張する映画ではない。政治を見つめる視点が常に低く設定されていて、そのことが映画にユーモアをもたらしている。例えば、ナレーションは理髪師の…

ナショナル・トレジャー

宝を追いかけていたグループが仲間割れして二つに割れてしまい敵対関係になる。独立宣言書を守る役目の女性研究員(ダイアン・クルーガー)と、盗み出す主人公(ニコラス・ケイジ)はもちろん最初は敵対関係にあるが、やがて行動を共にすることになる。宝探…

またの日の知華

原一男監督初の劇映画。「堕ちていく女性の一生」と要約できる物語の中で描写されている、観念的な女性像に対する違和感を最後まで持ちながら見た。堕ちていく過程をよりドラマチックにするために、少女時代の知華を、不幸の影を負っているが「まだ汚れのな…

エターナル・サンシャイン

いつもは文芸映画などでヨーロッパの女性を演じることが多いケイト・ウィンスレットが髪を派手に染めた、衝動的に行動する女性クレメンタインを演じ、いつもはアドリブを交えて早口でしゃべりまくるジム・キャリーが自分について多くを語らない無口な男性ジ…

アビエイター

冒頭と終盤に短く挿入される少年時代の母との入浴場面がこの長い映画全体を支えている。薄暗い部屋の中で、石鹸水を使って母に体を洗ってもらう場面には、父親の姿はなく、まるで羊水の中にいる胎児のように、ハワードは母親によって作られた石鹸水の皮膜の…

ロング・エンゲージメント

それなりに金をかけて再現された戦争場面、アメリ風の演出がされた場面、そしてミステリー映画風に演出された場面、この三つが入り混じって出てくるのだが、どこにアクセントが置かれているのか分からない映画だった。ギャスパー・ウリエルが兵士マネク、彼…

カナリア

走る岩瀬光一(石田法嗣)にカメラが寄り添い、打楽器の音も寄り添う。足音が刻む一つの単純なリズムがどんどん強度を増していく。そこに突然車が横切り横転し、そこで登場した少女由希(谷村美月)の早口の関西弁のリズムが加わり、映画の刻むビートはさら…

ローレライ

潜水艦内部は非常に狭いため、カメラの動きや芝居の自由度は当然低くなり、映画の撮影にとっていい条件ではないだろう。もちろん、今までの潜水艦映画はその狭さを逆手にとって、人間が生きていけない深海の水に取り囲まれた閉域にいる乗組員の恐怖と緊張感…

香港国際警察 NEW POLICE STORY

香港映画で主役として暴れまわるジャッキー・チェンを映画館で見るのは久しぶりかもしれない。ハリウッドで道化的な役が多かったことへの反動か、今回はかなりシリアスな役だが、小さな体ですばしっこく動き回る、昔のサイレント映画を思わせるようなコミカ…

トニー滝谷

イッセー尾形と宮沢りえが本当の夫婦のように自然に画面のなかに収まっている。そしてこのツーショットがあまりに自然なので、またあの孤独の牢獄に戻ってしまったらどうしようというトニーの恐怖感が、背後でなっている時計の秒針の音とともに観客にも伝わ…

セルラー

登場人物の描写に無駄がなく的確なので、ストーリーが停滞することなくテンポ良く進んでいく。最初登場する郊外の住宅街を歩く母子はどこにでもいそうな感じ(キム・ベイシンガーが色気を抑えて住宅街の平凡な母親をうまく演じている)で、事件から遠い存在…

マシニスト

統一感のある青ざめたモノクローム調の画面が、独特の世界を作り上げている。青白い画面の中に浮かび上がるクリスチャン・ベイルの体や顔は、強烈な印象を残す。最初に出てくる海辺に低く垂れ込める雲、町工場のさび付いた機械、主人公の部屋にある冷蔵庫、…

きみに読む物語

映画の冒頭で、老人になったノア(ジェームズ・ガーナー)は自分を平凡な男と呼ぶ。実際、回想によって主役の若い男女、ノア(ライアン・ゴズリング)とアリー(レイチェル・マクアダムス)が最初に画面に映ったとき、男は平凡な労働者の若者にしか見えない…

ネバーランド

バリを演じているジョニー・デップの演技で最も重要なのはささやくような繊細な声だろう。この映画でのバリは単に子供っぽい成長を止めた人間ではない。だから彼の声も子供っぽい甲高い声ではなく、子供だけでなく大人の女性も引き付ける魅力をもっており、…

THE JUON 呪怨

映画の最初にあの家で犠牲者となるヨーコ(真木よう子)は、奇妙な物音に引き付けられるように少し開いたふすまを覗き込んでしまい、さらに屋根裏まで覗いてしまうのだが、ホラー映画の観客ならだれでもそこはやばいと思う場所に、ホラー映画の登場人物たち…

ボーン・スプレマシー

過去の記憶の断片に苦しめられるボーンの描写というパーソナルな側面と、国家間の利害がからむ事件というパブリックな側面が冒頭に続けて描写され、次に、ボーンがひっそり暮らすインドと事件の起きたベルリンという何の関係もない二つの場所が、ボーンを狙…

アレキサンダー

ここ数年作られてきた歴史物とは投入されている金額やスタッフ、キャストの数が違うことは、戦闘シーンの迫力から伝わってくる。そしてそれはアレキサンダー(コリン・ファレル)の偉大さというよりもむしろ狂気を描こうとしているオリヴァー・ストーンにと…

Ray レイ

しぐさや表情がレイ・チャールズにそっくりというだけでなく、スクリーン上で「ミュージシャン」の身体を表現しているジェイミー・フォックスの演技は評判とおりすばらしい。ライブやレコーディングの場面で演奏が白熱していくにつれ体の揺れが大きくなり、…

犬猫

スヤスヤと寝息をたてて部屋でねむっているスズ(藤田陽子)の横に置いてある本のページが、少し開けたサッシ戸から入ってきた湿った微風でめくれ、しとしとと降る雨がサッシ戸の隙間から見え、静かな雨音が室内を満たしている。この場面で見られるように、…

パッチギ!

パッチギという言葉は本編では頭突きを意味する言葉として使われているが、本来は突き破る、乗り越えるという意味だという。そしてこの映画は壁を突き破り、隔たりを乗り越える動きに満ちている。冒頭でのバスを横転させる朝鮮高校生の直進的な動き、アンソ…