THE JUON 呪怨

 映画の最初にあの家で犠牲者となるヨーコ(真木よう子)は、奇妙な物音に引き付けられるように少し開いたふすまを覗き込んでしまい、さらに屋根裏まで覗いてしまうのだが、ホラー映画の観客ならだれでもそこはやばいと思う場所に、ホラー映画の登場人物たちは例外なく行ってしまう。しかしこの登場人物たちは、わざわざ映画館の暗闇に怖いものを見に行くホラー映画の観客たちの好奇心を体現する存在でもある。ヨーコが暗闇にゆっくりと近づき、そしてとうとう伽耶子(藤貴子)と視線を合わせてしまい、そしてまた家に静寂が訪れるこの場面は必要最小限の要素だけでできていて独立した一本の短編映画のように無駄がなく、清水崇監督の演出力を堪能できる。日本版のリメイクなのである程度どこから伽耶子が出てくるか予測はできるのだが、空間をうまく生かした演出のアイデアが相変わらず面白い。
 同時期に公開されている着信アリ2では、主人公の友人が犠牲になる場面が、まず携帯の液晶画面を通して描写され、次に直接描写され、そして最後に主人公が彼女の死体を発見して悲鳴を上げるのだが、ここで主人公と同じように驚く観客はほとんどいないだろう。まるでテレビドラマのように親切丁寧で、それゆえ驚きもなくいらいらする。主人公の恋人が引きずられていくところがスローモーションになる月9ドラマのような演出など、犠牲者が一瞬のうちに屋根裏や布団のなかに引きずり込まれる呪怨の演出と正反対だ。
 あの家で伽耶子や俊雄(尾関俊哉)と眼を合わせてしまうと、もう運命から逃れられないのだが、この二人の目は相変わらず不気味で怖い。追い詰められていく側の俳優の演技も日本版とはまた違っているのが興味深い。サラ・ミシェル・ゲラーは金切り声をあげるような大袈裟な感情表現をあまりせずに、追い詰められた不安感を表情に滲ませていてよかったと思う。あと、職場から自分のマンションまでスーザンが伽耶子に追い詰められていくシークエンスは、階段、蛍光灯、携帯、監視カメラ、ベッドなど様々な道具や空間を生かした演出とケイディ・ストリックランドの表情によって、すばらしいものになっている。