Ray レイ

 しぐさや表情がレイ・チャールズにそっくりというだけでなく、スクリーン上で「ミュージシャン」の身体を表現しているジェイミー・フォックスの演技は評判とおりすばらしい。ライブやレコーディングの場面で演奏が白熱していくにつれ体の揺れが大きくなり、その揺れる身体から次々と即興的なピアノのフレーズや歌詞が飛び出していき、周りのバンドメンバーも観客も彼の生み出すリズムの虜になっていく。愛人が自分に向けた怒りの感情を受け止めながらそれをそのまま音楽に転化させ新曲を生み出してしまう場面や、ライブで時間をつなぐための即興的なピアノのリズムから新曲がその場で生成していく場面では、ジェイミー・フォックスが「音楽があふれだす身体」を見事に演じている。愛人との関係やドラッグなどシリアスなエピソードがあるにもかかわらずさわやかな印象が残るのはレイ・チャールズがもっていて、ジェイミー・フォックスが再現しているユーモアのおかげだろう。
 起伏を欠いたエピソードの羅列になりがちな伝記物にアクセントを与えているのは少年時代の記憶なのだが、ここでの母親アレサ役のシャロン・ウォレン(なんとこれが映画初出演)の力強い存在感と視線が印象に残る。あえて盲目のレイに手を貸さず彼が聴覚で世界を認識する能力を引き出す場面はすばらしい。