映画

SPIRIT

強さを求める戦いが血なまぐさい殺人の応酬に行き着く前半、自然や村人との調和の中で生きる中盤、そして両方の特徴つまり静と動を併せ持つアクションをジェット・リーが見せるクライマックスの戦い、という三つのパートがうまくつながっていて面白い。 アク…

県庁の星

他の建物よりも飛び抜けて高い県庁と平べったい形の三流スーパーが示すように、官の世界と民の世界は明確に色分けされている。この明確な色分けは登場人物の造形にも表れていて、県議会議長や癒着する大手建築会社などは時代劇で言えば悪代官と悪徳商人であ…

エミリー・ローズ

大学寮で平穏な学生生活を送っているエミリー(ジェニファー・カーペンター)が、ある夜不気味な気配を感じた後金縛りのように体が硬直するという、最初の悪魔との接触場面や、その後空の黒雲から同級生の顔まであらゆるものが悪魔に見えてくる場面、また神…

力道山

この映画で、力道山(ソル・ギョング)は日韓双方の観客の安易な感情移入を拒む怪物として描かれている。冒頭、相撲部屋で朝鮮人であるという理由でリンチされる場面では確かに抑圧される被害者だが、彼はそんな位置に甘んじるスケールの人間ではない。逆に…

クラッシュ

The sense of touch という言葉で始まるこの映画は、他人に触れることの優しさと残酷さをこちらの肌にひりひりと感じさせる映画である。この映画を見た人なら、誰しも忘れられない「触れあい」の場面がいくつかあるのではないだろうか。 鍵屋の父親(マイケ…

ホテル・ルワンダ

普段混ざり合って生きている人々の間に、突然線が引かれる。そしてどちらの側に所属しているかによって、彼らの生死が決まる。ルワンダのフツ族とツイ族の間の差異は、彼らでさえIDカードを見なければ確認することができない。しかし、植民地支配の政策とし…

ウォーク・ザ・ライン 君につづく道

伝記物によくあるように、幼少期の経験が主人公ジョニー・キャッシュ(ホアキン・フェニックス)の人生に大きな影響を与えている。一つはラジオから流れてくるジューン・カーター(リース・ウィザースプーン)の歌声に出会ったこと、もう一つは兄の死である…

ジャーヘッド

主人公スオフォード(ジェイク・ギレンホール)が体験するのは敵と直接接触することのない奇妙な戦争である。訓練や上官の扇情的な演説によって殺意を高められた若い海兵隊員たちは、一国も早く銃を撃ち敵を殺したくてたまらない衝動に駆られるが、彼らの周…

エリ・エリ・レマ・サバクタニ

何のために生きるのか、という問いは危険な問いである。目の前の目的(end)を見失ったとき、人は人生の最後にやってくるより大きなThe End(終わり)に捕まってしまう。自殺を誘発するレミング病にかかった宮粼あおいがどうせみんな最後には死ぬのに、なぜ…

ミュンヘン

アヴナー(エリック・バナ)が情報屋ルイ(マチュー・アマルリック)を待っている時、目の前のショーウインドウにはピカピカのシステムキッチンがある。ガラス一枚を隔てて目の前にあるのに、そこには決して超えられない距離があるように感じる。アブナーの…

オリバー・ツイスト

セットや衣装によって再現されたヴィクトリア朝ロンドンの猥雑な雰囲気は十分楽しめる。表通りから狭い路地裏に入るにつれ、汚れて荒れた感じになっていく。 ただ、映画自体は淡々と進んでいく感じで、躍動感を感じるような見せ場が少ないように感じるのは、…

フライトプラン

題名の「プラン」はある犯罪計画を指しているのだが、ここに本格的なミステリーのようなリアリティを求める人はがっかりするかもしれない。これは母親(ジョディ・フォスター)が娘(マーリーン・ローストン)を探し出すという物語のための設定にすぎないの…

レジェンド・オブ・ゾロ

ヒーローも悪役も冒険活劇のパターン通りなんだけれど、そこが楽しい。スパニッシュギターの音とともにゾロを演じるアントニオ・バンデラスが現れると、民衆(ヒスパニック系)はみんな拍手する。悪役は顔に傷のあるワイルド系と何かをたくらんでいるクール…

THE 有頂天ホテル

こういうオールスターキャストの映画の場合、短編をつなぎ合わせたようなまとまりのない映画になりがちなのだが、この映画は一本の映画を見たという充実感を観客に与えてくれる。俳優たちそれぞれにちゃんと見せ場があり、しかもそれらがお互いに結びついて…

プライドと偏見

一つの空間に複数の人間がいて、そこでそれぞれが自分なりの態度で生きている。そして時折それぞれの人生が交錯する瞬間があるのだが、冒頭のベネット家の描写や舞踏会の場面で、移動撮影によるカメラがその瞬間を捉えている。ほとんどの地主階級の独身女性…

輪廻

主人公杉浦渚(優香)は映画女優であり、彼女は記憶というタイトルの映画撮影に参加している。過去の大量殺人事件に強い興味を持ち、過去の正確な再現に異常に執着する映画監督(椎名桔平)によって行われるこの映画撮影は、過去を現在に蘇らせる、そして前…

ロード・オブ・ウォー 史上最強の武器商人と呼ばれた男

重いテーマについてナレーションを多く入れて説明する生真面目な映画だが、武器商人を演じるニコラス・ケイジのふてぶてしい取引場面が見ていて楽しい。彼はいかがわしい詐欺師的な面を持つ人間を演じるのが本当に上手い。船の船名をごまかしたりしてインタ…

キング・コング

分かり合うことがほとんど不可能と思える二つの文明が接触する。ニューヨークから骸骨島に撮影に来たアメリカ人の撮影隊は、原住民と遭遇したとき、動物を手なずけるような態度で接しようとする。一方、原住民たちは彼らの中で一番美しい女優(ナオミ・ワッ…

SAYURI

貧しい漁村の家から姉妹が都に連れてこられるまでの過程で、彼女たちは息つく暇もなく馬車、汽車、また馬車へと移されていく。不気味なのは連れ去る男たちではなく、いったん作動したら止まらないこのシステムそのものである。貧困地域からゲイシャの置屋や…

ランド・オブ・プレンティ

私たちは訪れたことのない国々について、ある定まったイメージを持っている。そのイメージの形成に関して、繰り返し流されるテレビの映像の影響は大きい。イスラエルから一人でやってきた少女ラナ(ミシェル・ウィリアムズ)は、らくだに乗ったことあるか、…

エリザベスタウン

主人公ドリューがシューズの開発プロジェクトに大失敗したとき、多くの人間が勤める多国籍企業の中で彼がその責任を一人で負うことになる。周りの人間はただ最後の視線、つまりあいつは終わりだ、もう会うこともないだろうという憐れみと軽蔑の入り混じった…

ALWAYS 三丁目の夕日

大量生産、大量消費の時代に入る直前、昭和33年の世界を舞台にしたこの映画では、物と人の関係が私たちの時代とは異なる。冒頭、少年三人がプロペラ紙飛行機を飛ばす場面(ワンカットで撮られていて、作品のテーマを示すと同時に、路地と大通りの距離感を感…

ダーク・ウォーター

映画の最初から最後まで、戸外の場面では必ず雨が降っていて、段々と雨に閉じ込められていくという閉塞感を、私たちは主人公のダリアと共有していくことになる。ダリア(ジェニファー・コネリー)とセシリア(アリエル・ゲイド)親子が住むアパートは明るい…

ブラザーズ・グリム

少女失踪事件が起こるマルバデンの森の雰囲気がいい。日があまり差し込まない薄暗い森の中で、赤い頭巾の少女がいなくなる場面や、危険と知りながら奥に進んでしまうヘンデルとグレーテルの兄妹の場面、グリム兄弟(マット・デイモン、ヒース・レジャー、私…

TAKESHIS'

画面上で、北野武は黒髪のたけしと金髪のたけしに分裂している。この分裂は観客に分かりやすいが、二人の世界はさらに分裂していく。設定上、夢と現実の区別があるらしいということは、眠りから覚める場面で分かるのだが、どれが現実でどれが幻想、どれが本…

アワーミュージック

煉獄編の中でホメロスに関する印象的な言及がある。彼は盲目だったので自分で戦場を見たわけではなく、他人が語る戦争の話を聞いていただけである。戦場から遠く離れて、彼は戦争のイメージを収集し、編集する。もちろん、我々の大多数もまた、戦場を知らな…

春の雪

冒頭、友人の本多(高岡蒼佑)とともに寝転がっている松枝清顕(妻夫木聡)がその目元に浮かべているのは、周囲に対する優雅で酷薄な無関心の表情である。ヨーロッパ貴族のまねごとに熱心な自分の両親を含む華族社会も、国家神道がもたらす崇拝と熱狂に染ま…

ティム・バートンのコープスブライド

チョコレート工場では原色の世界に観客を引き込んだティム・バートンだが、今度は明るい日差しが入り込まない世界の中で、曲がった細い線と青色で観客を魅了する。 冒頭、ビクター(ジョニー・デップ)が丸く曲がった軸の羽ペンで画用紙に優美な曲線を描く場…

蝉しぐれ

同じ藤沢周平原作でも、山田洋次監督のものとは趣がちがうのが面白い。黒土三男が強調しているのは主人公たちを取り巻く自然の様々な姿である。川を決壊させる豪雨、冬の吹雪、そして死体を容赦なく腐らせていく猛暑など、その過酷さが前半では強調される。…

この胸いっぱいの愛を

通常のタイムスリップものと違って、彼らは現在に戻るために必死になるとか、将来の自分のために奮闘するわけではない。彼らがタイムスリップする原因となっている後悔、思い残したこととは、愛していた、あるいは好意をもっていた者に関係しており、彼らが…