甘い人生

 フィルム・ノワールの陰影に富んだ画面に、ブラックスーツに身を包んだ直線的な顔立ちのイ・ビョンホンはよく似合っている。主人公のソヌが住む世界は濃い影が支配的な裏の世界だが、ボス(キム・ヨンチョル)の愛人であるヒス(シン・ミナ)の周りには、時々淡い光が差し込んでいる。露骨に挑発的なわけではなく、かといっておとなしい清純派でもないシン・ミナは、無意識のうちにすさんだ世界にいる男たちをひきつけてしまう微妙な役割にふさわしい。ソヌがヒスの演奏を聴いている場面の、ヒスの曲線的な顔に当たっている淡い光が、見てはいけない夢の甘さを表していてすばらしい。
 彼女を監視するという仕事自体が彼の人生にとってはむごい罠なのだろう。監視し続けるということは見つめ続けるということであり、彼自身の部屋のように明と暗が強いコントラストで点滅する世界とは違う、淡い光に包まれた彼女を見つめることには、ほのかな淡い感情が伴う。おそらく、ボスが彼女に見ているのも同じ世界なのであり、口では安心してこの仕事を任せるといっていた彼は、実際には裏切りを予見していたかのようにすばやく冷酷に対応する。ボスと主人公の関係には、擬似的な父子関係とライバル関係が入り混じっている。ボスは一方で有能な部下を必要としながら、他方で自分が乗り越えられることを恐れているように見える。なぜなら、彼は以前にもささいなミスを犯した有能な部下を始末しているからだ。韓国特有の厳しい父子関係がボスの口から語られたりもするのだから、部下同士の反目は兄弟同士の父の寵愛を独占するための戦いであり、主人公の復讐は一種の父殺しとも言える。
 終盤の破滅に至る復讐が、やや長すぎるのが残念なところで、銃撃戦もあれほどの長さが必要とは思えない。リンチを加えた連中とボスに限定して簡潔に、クールに演出してほしかった。