2005-01-01から1年間の記事一覧

ロード・オブ・ウォー 史上最強の武器商人と呼ばれた男

重いテーマについてナレーションを多く入れて説明する生真面目な映画だが、武器商人を演じるニコラス・ケイジのふてぶてしい取引場面が見ていて楽しい。彼はいかがわしい詐欺師的な面を持つ人間を演じるのが本当に上手い。船の船名をごまかしたりしてインタ…

キング・コング

分かり合うことがほとんど不可能と思える二つの文明が接触する。ニューヨークから骸骨島に撮影に来たアメリカ人の撮影隊は、原住民と遭遇したとき、動物を手なずけるような態度で接しようとする。一方、原住民たちは彼らの中で一番美しい女優(ナオミ・ワッ…

SAYURI

貧しい漁村の家から姉妹が都に連れてこられるまでの過程で、彼女たちは息つく暇もなく馬車、汽車、また馬車へと移されていく。不気味なのは連れ去る男たちではなく、いったん作動したら止まらないこのシステムそのものである。貧困地域からゲイシャの置屋や…

*[映画] Mr.&Mrs. スミス アクション映画として目新しいところはほとんどない。金のかかった派手な銃撃戦や爆破、カーチェイスはあるが、それが緊迫感をもたらすわけではない。主人公二人(ブラッド・ピット、アンジェリーナ・ジョリー)が組織に属する殺し…

ランド・オブ・プレンティ

私たちは訪れたことのない国々について、ある定まったイメージを持っている。そのイメージの形成に関して、繰り返し流されるテレビの映像の影響は大きい。イスラエルから一人でやってきた少女ラナ(ミシェル・ウィリアムズ)は、らくだに乗ったことあるか、…

エリザベスタウン

主人公ドリューがシューズの開発プロジェクトに大失敗したとき、多くの人間が勤める多国籍企業の中で彼がその責任を一人で負うことになる。周りの人間はただ最後の視線、つまりあいつは終わりだ、もう会うこともないだろうという憐れみと軽蔑の入り混じった…

ALWAYS 三丁目の夕日

大量生産、大量消費の時代に入る直前、昭和33年の世界を舞台にしたこの映画では、物と人の関係が私たちの時代とは異なる。冒頭、少年三人がプロペラ紙飛行機を飛ばす場面(ワンカットで撮られていて、作品のテーマを示すと同時に、路地と大通りの距離感を感…

ダーク・ウォーター

映画の最初から最後まで、戸外の場面では必ず雨が降っていて、段々と雨に閉じ込められていくという閉塞感を、私たちは主人公のダリアと共有していくことになる。ダリア(ジェニファー・コネリー)とセシリア(アリエル・ゲイド)親子が住むアパートは明るい…

ブラザーズ・グリム

少女失踪事件が起こるマルバデンの森の雰囲気がいい。日があまり差し込まない薄暗い森の中で、赤い頭巾の少女がいなくなる場面や、危険と知りながら奥に進んでしまうヘンデルとグレーテルの兄妹の場面、グリム兄弟(マット・デイモン、ヒース・レジャー、私…

TAKESHIS'

画面上で、北野武は黒髪のたけしと金髪のたけしに分裂している。この分裂は観客に分かりやすいが、二人の世界はさらに分裂していく。設定上、夢と現実の区別があるらしいということは、眠りから覚める場面で分かるのだが、どれが現実でどれが幻想、どれが本…

アワーミュージック

煉獄編の中でホメロスに関する印象的な言及がある。彼は盲目だったので自分で戦場を見たわけではなく、他人が語る戦争の話を聞いていただけである。戦場から遠く離れて、彼は戦争のイメージを収集し、編集する。もちろん、我々の大多数もまた、戦場を知らな…

春の雪

冒頭、友人の本多(高岡蒼佑)とともに寝転がっている松枝清顕(妻夫木聡)がその目元に浮かべているのは、周囲に対する優雅で酷薄な無関心の表情である。ヨーロッパ貴族のまねごとに熱心な自分の両親を含む華族社会も、国家神道がもたらす崇拝と熱狂に染ま…

ティム・バートンのコープスブライド

チョコレート工場では原色の世界に観客を引き込んだティム・バートンだが、今度は明るい日差しが入り込まない世界の中で、曲がった細い線と青色で観客を魅了する。 冒頭、ビクター(ジョニー・デップ)が丸く曲がった軸の羽ペンで画用紙に優美な曲線を描く場…

蝉しぐれ

同じ藤沢周平原作でも、山田洋次監督のものとは趣がちがうのが面白い。黒土三男が強調しているのは主人公たちを取り巻く自然の様々な姿である。川を決壊させる豪雨、冬の吹雪、そして死体を容赦なく腐らせていく猛暑など、その過酷さが前半では強調される。…

この胸いっぱいの愛を

通常のタイムスリップものと違って、彼らは現在に戻るために必死になるとか、将来の自分のために奮闘するわけではない。彼らがタイムスリップする原因となっている後悔、思い残したこととは、愛していた、あるいは好意をもっていた者に関係しており、彼らが…

シン・シティ

冒頭の女が男に騙され殺されるエピソードからも分かるように、モラルのないこの街では、女は食い物にされる。この街を牛耳る権力者がそれを助長している。上院議員の息子(ニック・スタール)は少女を暴行し、切り刻む。女性を襲い、食い物にする(比喩では…

SHINOBI

恋愛ものとしてみるには、恋愛関係が深まっていく過程がほとんど描かれていないのが物足りない。朧(仲間由紀恵)と弦之介(オダギリジョー)の出会いの場面が冒頭にあり、次の場面ではもう恋仲になっているのだが、印象に残る場面といえば櫛を渡す場面くら…

シンデレラマン

主人公ジム・ブラドック(ラッセル・クロウ)の戦いの場はリングだけではない。世界大恐慌の時代、アイルランド移民にとって子供と妻と共に生きていくことそれ自体が戦いとなる。数々の故障を抱え、それでもリングに上がりブーイングを浴びながら無様な試合…

サヨナラCOLOR

思い焦がれ見つめ続ける男と、見つめられる女がいる。高校の時同級生だった二人は、医者と患者として再会する。女は子宮がんを患っていて、医者である男も実は肝臓を患っている。片思いでただ遠くから見つめるだけの存在だった女性が、男の側にいる。日常生…

メゾン・ド・ヒミコ

主人公沙織(柴咲コウ)は二つの場所を往復する。一つは彼女が勤めている塗装会社の事務所で、専務の細川(西島秀俊)が中心にいる。彼は事務員の一人と不倫関係にあるが、新しい事務員が入ればすぐに乗り換える。事務員採用時に細川が履歴書の顔写真しか見…

チャーリーとチョコレート工場

子供の味覚にとって、甘いものは強い欲望の対象である。しかし同時に、虫歯を防ぐため、栄養のバランスのため親から抑制されるものでもある。禁止、抑制されているからこそ、子供にとって特別な食べ物になるともいえる。誕生日や遠足など、特別な日にはケー…

タッチ

幼馴染の浅倉南(長澤まさみ)と上杉兄弟(斉藤祥太、斉藤慶太)の三角関係が思春期に入って変化していく前半部分はわりとうまく演出されていたと思う。二つのキスシーンや三人でのキャッチボールの場面などには、互いへの配慮から恋愛関係に移行することに…

NANA

「少しも大人になんかなれないのにもう甘えてばかりはいられない現実の中で」、20歳の女性二人が東京で自分の居場所を探している。特に優れた天性の能力に恵まれているわけではない普通の20歳の女性である小松奈々にとって、親元を離れ生きていくために必要…

ランド・オブ・ザ・デッド

人間社会が富裕階級と貧困階級にはっきりと分けられ、さらに電流が流れる鉄線の向こうにはゾンビが徘徊している。食料を確保するには外部に出なくてはならないのだが、それは貧困階級から金で雇われたものが危険に身をさらしながら行う。ビル内部にいる富裕…

愛についてのキンゼイ・レポート

観察者は観察対象に対して一定の距離を置いて客観性を確保する。しかし人間の性が研究対象になったとき、観察者は自らを実験台にする危険をおかすことになる。モラルに挑戦する調査はキンゼイの夫婦生活、研究員たちの私生活に影響を及ぼしていく。キンゼイ…

奥さまは魔女

鼻を動かしたり耳たぶを触ったりするおなじみの魔女のしぐさを何度もするニコール・キッドマンが可愛らしい。魔女の世界から来たばかりで世間知らずで恋愛にあこがれている女性という、いつものシャープなイメージとは正反対の役をやっている。まるで学生の…

容疑者 室井慎次

それほど複雑とも思えない事件が、警察庁、警視庁、検察、公安、弁護士(八嶋智人)がからむことで複雑な様相を呈していき、真相は見えなくなっていく。多くの関係者が自分の地位と利害を追い求め事件の真相解明になんの情熱も持たないのに対して、主人公の…

ヒトラー 〜最期の12日間〜

第3帝国やナチズムに関するヒトラーの演説を聞いて熱狂的に彼を支持した大衆は自分が強者になったような快感を感じていたのだろうが、ヒトラーにとっては他民族だけでなく国民の大半は弱者であり、だからソ連軍の進行の際、市民を非難させる手段をほとんど講…

妖怪大戦争

ポスターや宣伝を見た人は、悪と戦いながらひと夏の間に少年が成長するという、夏休み映画らしいストーリーを想像するだろう。RPGの主人公のようにかっこいいコスチュームを着て剣を構えた主人公を見れば、妖怪の助けを借りながら戦いを勝ち抜いて戦闘力…

リンダ リンダ リンダ

冒頭、映画部の学生がカメラマンと被写体の女学生との間で右往左往している。プロではない学生が行う文化祭の準備というのは、こういう要領の悪い無駄がたくさんある。そして効率性を求めるプロなら切り捨てるべきこの寄り道の時間こそが、文化祭の楽しさで…