セルラー

 登場人物の描写に無駄がなく的確なので、ストーリーが停滞することなくテンポ良く進んでいく。最初登場する郊外の住宅街を歩く母子はどこにでもいそうな感じ(キム・ベイシンガーが色気を抑えて住宅街の平凡な母親をうまく演じている)で、事件から遠い存在に見える。だからその後何の前触れもなく起こる事件のインパクトは大きい。そして母親が高校の生物教師という設定もちゃんと後々生かされていく。
 事件に巻き込まれる二人の男性も平凡さが強調されている。SOSの電話を受け取るライアン(クリス・エバンス)は、ビーチの場面でナンパに精を出す、人懐っこいが軽い男として簡潔に描写されていて、だからこそ彼が携帯を通して事件に巻き込まれながら正義感を発揮していく展開が面白くなっていく。もう一人事件に関わっていく警官(ウィリアム・H・メイシー)も、これまで全く大きな事件と関係のない警官生活を送ってきていて、のんびりと退職後の仕事の準備をしているのだが、彼もまた徐々に警官らしい洞察力と仕事に対する責任感、そして悪徳警官とは正反対の倫理観を発揮していく。この、平凡で事件性のない生活から突然犯罪の世界に引きずり込まれるというプロットを、無駄のない的確な演出で見せていくところが、見ていて気持ちいい。
 もちろん携帯電話の機能も非常にうまくストーリーに組み込まれている。室内でのアンテナの感度、バッテリー切れ、着信履歴の利用、録画機能など、携帯を持っている人なら誰でも使ったことのある機能、経験したことのあるトラブルが、映画のサスペンスを盛り上げる重要な要素として使われている。(原案はフォン・ブースのラリー・コーエン