映画

シン・シティ

冒頭の女が男に騙され殺されるエピソードからも分かるように、モラルのないこの街では、女は食い物にされる。この街を牛耳る権力者がそれを助長している。上院議員の息子(ニック・スタール)は少女を暴行し、切り刻む。女性を襲い、食い物にする(比喩では…

SHINOBI

恋愛ものとしてみるには、恋愛関係が深まっていく過程がほとんど描かれていないのが物足りない。朧(仲間由紀恵)と弦之介(オダギリジョー)の出会いの場面が冒頭にあり、次の場面ではもう恋仲になっているのだが、印象に残る場面といえば櫛を渡す場面くら…

シンデレラマン

主人公ジム・ブラドック(ラッセル・クロウ)の戦いの場はリングだけではない。世界大恐慌の時代、アイルランド移民にとって子供と妻と共に生きていくことそれ自体が戦いとなる。数々の故障を抱え、それでもリングに上がりブーイングを浴びながら無様な試合…

サヨナラCOLOR

思い焦がれ見つめ続ける男と、見つめられる女がいる。高校の時同級生だった二人は、医者と患者として再会する。女は子宮がんを患っていて、医者である男も実は肝臓を患っている。片思いでただ遠くから見つめるだけの存在だった女性が、男の側にいる。日常生…

メゾン・ド・ヒミコ

主人公沙織(柴咲コウ)は二つの場所を往復する。一つは彼女が勤めている塗装会社の事務所で、専務の細川(西島秀俊)が中心にいる。彼は事務員の一人と不倫関係にあるが、新しい事務員が入ればすぐに乗り換える。事務員採用時に細川が履歴書の顔写真しか見…

チャーリーとチョコレート工場

子供の味覚にとって、甘いものは強い欲望の対象である。しかし同時に、虫歯を防ぐため、栄養のバランスのため親から抑制されるものでもある。禁止、抑制されているからこそ、子供にとって特別な食べ物になるともいえる。誕生日や遠足など、特別な日にはケー…

タッチ

幼馴染の浅倉南(長澤まさみ)と上杉兄弟(斉藤祥太、斉藤慶太)の三角関係が思春期に入って変化していく前半部分はわりとうまく演出されていたと思う。二つのキスシーンや三人でのキャッチボールの場面などには、互いへの配慮から恋愛関係に移行することに…

NANA

「少しも大人になんかなれないのにもう甘えてばかりはいられない現実の中で」、20歳の女性二人が東京で自分の居場所を探している。特に優れた天性の能力に恵まれているわけではない普通の20歳の女性である小松奈々にとって、親元を離れ生きていくために必要…

ランド・オブ・ザ・デッド

人間社会が富裕階級と貧困階級にはっきりと分けられ、さらに電流が流れる鉄線の向こうにはゾンビが徘徊している。食料を確保するには外部に出なくてはならないのだが、それは貧困階級から金で雇われたものが危険に身をさらしながら行う。ビル内部にいる富裕…

愛についてのキンゼイ・レポート

観察者は観察対象に対して一定の距離を置いて客観性を確保する。しかし人間の性が研究対象になったとき、観察者は自らを実験台にする危険をおかすことになる。モラルに挑戦する調査はキンゼイの夫婦生活、研究員たちの私生活に影響を及ぼしていく。キンゼイ…

奥さまは魔女

鼻を動かしたり耳たぶを触ったりするおなじみの魔女のしぐさを何度もするニコール・キッドマンが可愛らしい。魔女の世界から来たばかりで世間知らずで恋愛にあこがれている女性という、いつものシャープなイメージとは正反対の役をやっている。まるで学生の…

容疑者 室井慎次

それほど複雑とも思えない事件が、警察庁、警視庁、検察、公安、弁護士(八嶋智人)がからむことで複雑な様相を呈していき、真相は見えなくなっていく。多くの関係者が自分の地位と利害を追い求め事件の真相解明になんの情熱も持たないのに対して、主人公の…

ヒトラー 〜最期の12日間〜

第3帝国やナチズムに関するヒトラーの演説を聞いて熱狂的に彼を支持した大衆は自分が強者になったような快感を感じていたのだろうが、ヒトラーにとっては他民族だけでなく国民の大半は弱者であり、だからソ連軍の進行の際、市民を非難させる手段をほとんど講…

妖怪大戦争

ポスターや宣伝を見た人は、悪と戦いながらひと夏の間に少年が成長するという、夏休み映画らしいストーリーを想像するだろう。RPGの主人公のようにかっこいいコスチュームを着て剣を構えた主人公を見れば、妖怪の助けを借りながら戦いを勝ち抜いて戦闘力…

リンダ リンダ リンダ

冒頭、映画部の学生がカメラマンと被写体の女学生との間で右往左往している。プロではない学生が行う文化祭の準備というのは、こういう要領の悪い無駄がたくさんある。そして効率性を求めるプロなら切り捨てるべきこの寄り道の時間こそが、文化祭の楽しさで…

亡国のイージス

映画の序盤、若い乗組員たちが地上で乱闘事件を起こしたとき、先任伍長仙石(真田広之)は警官に土下座することでその場を収める。彼の行動は部下を救う勇気の表れなのか、卑屈な弱さの表れなのか。部下の一人如月(勝地涼)の眼には、最初それは弱さにしか…

亀は意外と速く泳ぐ

三木聡監督本人が小ネタ主義と言っているように、小さな脱力ギャグが連発されるのだが、これと上野樹里の相性が非常にいい。個性派俳優がたくさん出演しているが、面白さの理由はそれだけではない。彼らの横で困った顔をして小首をかしげている彼女が受けの…

アイランド

車がひっくり返ったりやたらと物が壊れたりするアクションシーンはいままでのマイケル・ベイ監督の映画とあまり変わらない。面白いのは臓器移植をテーマにした脚本のアイデアである。 我々が相反する二つの欲望を抱えながら生きていることをこの物語は観客に…

姑獲鳥の夏

現実認識の脆さに関する京極堂(堤真一)の長い薀蓄から始まるこの映画は、関口巽(永瀬正敏)が現実感覚を失っていく様子を、かなり特殊な演出方法で表現しようとしている。画面を斜めにしたり逆さにしたり回したり、特殊なレンズで撮影したりしていて、あ…

逆境ナイン

原作は未読。笑いのタイミングを演出するのは難しい。監督やCG製作者が笑わせようと意図したところ、特にセリフが巨石になるところは、テンポが遅すぎて観客の笑うタイミングとずれてしまう。実際には堀北真希や田中直樹がセリフを言った瞬間に客は笑ってい…

スターウォーズ エピソード3 シスの復讐

シリーズ全体に言えることは、どんな窮地も冗談を交えながら切り抜けてしまう楽天性と、親子が善と悪に分かれて対立するという悲劇性が両方存在するということだ。旧シリーズでは楽天性のイメージのほうが強かったと思うし、悲劇性を体現するような役者は(…

フライ、ダディ、フライ

風を切って走り空へと舞い上がるというテーマは作品全体に見られる。映画の冒頭で、打ち上げ花火が上がっている空から地面を這うように進む電車を見つめる視点から映画は始まる。電車には主人公の鈴木が乗っているが、仕事に疲れた彼には空を見上げる余裕も…

宇宙戦争

戦争という言葉から、兵士たちが二つの陣営に分かれて撃ち合うゲーム的な戦争をイメージする人が多いだろう。観客はどちらかに感情移入し、自分の攻撃衝動を満たす。しかし、ここで描かれているのは、そのような戦闘の脇で右往左往し、破壊と殺戮から逃れよ…

バットマン・ビギンズ

バットマンが普通の正義のヒーローものと違うのは、正義と悪が明暗としてくっきり分かれているわけではなく、主人公もまた闇の住人であることだ。だから悪役たち(bad)と主人公(bat)との差異は常に紙一重である。 悪役たちが町を牛耳る手段として用いるのは恐…

ザ・リング2

中田秀夫監督ほど周りの期待と本人の資質のずれを感じさせる監督もいないのではないだろうか。彼の他の作品を見ると、彼はなによりもまず女優の表情をとることに執着しているように思える。リングも彼にとっては松嶋菜々子を中心とした母子と夫妻の物語であ…

オペレッタ狸御殿

互いに相容れない二つの陣営(人と狸)の姫と若君の恋というと、ロミオとジュリエットのようなパターンを想像する人が多いだろう。相対する二つの力が直線的に激突し、二人の恋は引き裂かれるという、古典的なパターン。しかし鈴木清順監督にとって、陣営を…

電車男

原作の主人公のイメージを忠実に再現するのではなくて、世間が抱いている典型的なオタクのイメージに近いルックスで主人公は登場する。オタク特有の行動や失敗談が笑いのネタになっているのだが、それ自体は特に目新しいものではない。山田孝之が前半と後半…

 ライフ・アクアティック

ベラフォンテ号の中には様々な人種、国籍の乗組員たちがいる。一応英語が標準語として使われているが、デヴィッド・ボウイをポルトガル語で熱唱する黒人乗組員(セウ・ジョルジ)、チューリッヒからやってきた銀行員(バッド・コート)やズィスー(ビル・マ…

ミリオンダラー・ベイビー

ジムの片隅で夜になっても一人で黙々とサンドバッグを打ち続けるマギー(ヒラリー・スワンク)には、前向きに生きる強い意志が全身から感じられる。そしてそれは映画の最後までそうなのだということを強調しておきたい。精神的に堕落した家族から離れて一人…

炎のメモリアル

一人の消防士の半生を短いエピソードを連ねて見せる構成は伝記映画などにもよくあるもので、どうしてもダイジェストを見ているような気分になりがちである。平和な日常生活と命を落とすかもしれない恐ろしい火災現場が交互に映し出される構成は、映画として…