マシニスト

 統一感のある青ざめたモノクローム調の画面が、独特の世界を作り上げている。青白い画面の中に浮かび上がるクリスチャン・ベイルの体や顔は、強烈な印象を残す。最初に出てくる海辺に低く垂れ込める雲、町工場のさび付いた機械、主人公の部屋にある冷蔵庫、謎の男が乗っている赤い車、そういった細部の一つ一つが映画を見終えた後もしっかりと記憶に残っている。
 眠れずにやせていく主人公が徐々に周りの人間を信じられなくなって、精神的に追い詰められていく過程が、リアルで恐ろしい。自分のせいでこんなことが起こってしまったという事件(工場、遊園地)の連続、そして周りが自分を落としいれようとしているという被害妄想、この悪夢のような出来事を、ブラッド・アンダーソン監督は見事に演出している。青い色調の画面に現れた赤い車を主人公が追跡する場面など、観客も方向感覚を失っていく感じがするし、何度も繰り返される空港のレストランや交差点、進まない時計など、時間感覚も狂って行く。
 物語の筋を読むと静的で文学的な印象を持つかもしれないが、先にあげた車の場面や、工場での事故の場面、主人公が警官に追いかけられる場面など、動的な場面の演出も的確で見ていて退屈しない。