エミリー・ローズ


 大学寮で平穏な学生生活を送っているエミリー(ジェニファー・カーペンター)が、ある夜不気味な気配を感じた後金縛りのように体が硬直するという、最初の悪魔との接触場面や、その後空の黒雲から同級生の顔まであらゆるものが悪魔に見えてくる場面、また神父(トム・ウィルキンソン)や神父の弁護を担当する女性弁護士(ローラ・リニー)の部屋に夜中不気味な影が忍び寄る場面などは、私たちが日常的に感じている影や闇に対する不安を思い出させるようなシーンになっている。ただ、悪魔の憑依によってエミリーの錯乱がひどくなってくると、エミリーの絶叫の連続でやや単調になってくる。ただ、キリスト教の世界を身近に感じている人にとってはエミリーが叫ぶ悪魔の言葉を不気味なものに感じるかもしれない。
 裁判劇が中心なので、普通の状態の時のエミリーの描写がもっとあれば、裁判終盤で出てくるエミリーの手紙ももっと心を打つものになっていたと思う。憑依後もそばを離れなかったボーイフレンドとエミリーの関係や、神父とエミリーの関係の描写は、この裁判劇にとっては必要なものだと思うが、あまり説明されていない。特に神父と普通の状態の時のエミリーとの会話場面は絶対必要ではないだろうか。また、エミリーが普段どれだけ信心深い女性であったかということも、終盤に聖母マリアとの遭遇場面があるのだから、描写してほしかった。
 ある症状に対して全く異なる二つの解釈が出てくるところが、この裁判の見所になっている。検察側(キャンベル・スコット)は薬の服用を続けていれば症状は改善されたはずなのにそれを怠ったのは、神父に責任があると訴える。一方弁護側は、世界中で普遍的に見られる憑依現象に対して悪魔払いの儀式は有効なのに、薬で脳が麻痺していたため悪魔払いが効かなかったと反論する。どちらも合理的な説明であり、どちらが真実なのか確かめることはもはや不可能である。どちらの言説も事実を完璧に捉えることは不可能であり、検察と弁護側の間には、壮絶な死に方をしたエミリーの写真が置かれている。