NANA

NANA -ナナ- スタンダード・エディション [DVD]
 「少しも大人になんかなれないのにもう甘えてばかりはいられない現実の中で」、20歳の女性二人が東京で自分の居場所を探している。特に優れた天性の能力に恵まれているわけではない普通の20歳の女性である小松奈々にとって、親元を離れ生きていくために必要な仕事の選択肢はオフィスの雑用係などに限られるのだが、それは彼女が「自分の居場所」だと感じられるようなものではない。だから彼氏の隣というのは彼女にとってかけがえのない場所になる。それを失うことがどれほどのショックなのかは、ファミレスからの帰り道での宮粼あおいのふらついた足取りに表れている。20歳の奈々は他人に依存しがちな頼りない女性だが時折ナナを見守るような眼差しを見せることもある。そしてモノローグを語っている彼女はおそらくもっと年上であり、若いころの自分たちを慈しむような優しい声で昔を回顧している。この頼りなさとキュートさとたくましさが入り混じった不思議な女性を宮粼あおいが見事に演じている。
 一方、天性の才能に恵まれた女性である大崎ナナにとって、自分の居場所は恋人のレンがバンドを脱退して別のバンドに入り東京に行くことで二つに分裂してしまう。家族はなく、自分の体に蓮のタトゥーを彫るほどレン(松田龍平)を必要としていながら、ステージで歌い成功する夢を捨てることもできない。化粧をしているときには強い眼差しで周りを圧倒している彼女だが、化粧を落としレンと一緒に浴槽に入っているときには、むき出しになった細い肩がすぐにポキっと折れてしまいそうな脆さを感じさせる。その脆さはレンとの別れの場面や再会の場面の、うずくまった折れそうな細い体からも感じられる。顔の類似ばかり取り上げられがちだが、中島美嘉は大崎ナナの繊細で弱い部分を表すのにふさわしい人だと思う。
 そんな彼女たちにとって仕事とも恋とも関係のない居場所があることは救いになる。ふられた奈々をナナがベッドで添い寝して慰める場面や、トラネスのライブで気の強いナナが奈々の隣で涙を流し二人が手をつなぐ場面には、二人の絆の強さが感じられる。女性の友人どうし特有の、抱き合ったり戯れにキスしたりする関係が、男性から見ると不思議な感じがする。何度か写される707号室の窓際のテーブルは二人の居場所を表す象徴的な場所である。