チャーリーとチョコレート工場

チャーリーとチョコレート工場 [DVD]
 子供の味覚にとって、甘いものは強い欲望の対象である。しかし同時に、虫歯を防ぐため、栄養のバランスのため親から抑制されるものでもある。禁止、抑制されているからこそ、子供にとって特別な食べ物になるともいえる。誕生日や遠足など、特別な日にはケーキやお菓子など甘いものをいつもよりたくさん食べられ、幸せな気分になった人も多いだろう。子供のころのウィリー・ウォンカにとって、暖炉に焼けずに残っていた一粒のチョコの味は、禁じられていたからこそ特別甘かったに違いなく、これをきっかけに彼はチョコの夢中になっていく。主人公のチャーリー(フレディ・ハイモア)は貧しいのでチョコを食べられるのは一年に一度誕生日だけだ。しかしだからこそ安い一枚の板チョコは彼にとって特別な味になる。さらに、彼は両親と祖父母四人と共に暮らしていてしかったり注意したりしてくれる人がそばにいるため、欲望をコントロールすることを覚えていて、自分のチョコを家族に分け与える優しさももっている。
 工場に招待された悪ガキたちは、チャーリーとは逆に、自分たちの欲望を抑制してくれる人が周りにいない子供たちである。そしてそれゆえに、彼らにはチャーリーやウォンカが知っている特別な甘さを知らない。四六時中チョコやガムを食べている子供、楽しめといわれて物を壊すことしかできない子供、他人の上に立つことしか頭にない子供たちの人生には、快楽がない。チューインガムのように膨らんでしまった女の子のように、彼らは自分の膨れ上がった欲望のせいで身動きがとれなくなってしまう。
 ウォンカ(ジョニー・デップ)の工場には、わき道にそれることの楽しさが満ちている。チョコの製造過程には、効率性という観点からみると無駄としか思えない楽しい巨大な仕掛けがたくさんある。しかし特別賞という目標に最短距離で行くことしか考えていない子供たちはこの仕掛けを楽しむ余裕がない。そして忠告や命令に従うことを知らず、欲望の対象に一直線に向かってしまう彼らは、易々とウォンカの罠にはまっていく。もちろんウォンカとウンパ・ルンパたち(ディープ・ロイ)はこの仕掛けを歌と踊りまで用意?(前日にリハーサルしたに違いない)してゆっくり存分に楽しんでいる(ダニーエルフマンの作った音楽はどの曲も本当に楽しい)。この工場では、目的地まで垂直に最短距離を進むはずのエレベーターまで、縦横無尽に動き、遂には建物の外まで出てしまう。
 子供以上に楽しんで生きている可愛い大人たちがすばらしい。時々意地悪そうな顔をするウォンカと、表情の変わらないウンパ・ルンパたち(年齢性別不詳だが・・)。チャーリーの四人の祖父母、特に突然奇妙な掛け声とともに踊りだすジョーおじいさん(デイビッド・ケリー)。つらい状況を穏やかな表情で耐えるチャーリーの父母(ノア・テイラー、ヘレナ・ボナム=カーター)。そしてしかめっ面した抑圧的父親であるウォンカの父(クリストファー・リー)が、ウォンカと和解の抱擁をする場面のぎこちない動き。華やかなセットだけではなく、なにげないショット一つ一つがすばらしい。