シン・シティ

 冒頭の女が男に騙され殺されるエピソードからも分かるように、モラルのないこの街では、女は食い物にされる。この街を牛耳る権力者がそれを助長している。上院議員の息子(ニック・スタール)は少女を暴行し、切り刻む。女性を襲い、食い物にする(比喩ではない)サイコキラーイライジャ・ウッド)は権力者に保護されている。刑事(ベニチオ・デル・トロ)は女にしつこくつきまとう。この映画に登場する女性たちはほとんどが歓楽街で仕事をするものたちだが、何人か仲間や男性を裏切るものもいるものの、ファム・ファタールのように男の人生を狂わすような悪女は登場しない。昔のハードボイルドの世界と比べて、男性たちの直接的で倒錯的な暴力が前面に出ていて、だから娼婦たちも武装して自らを守らねばならない。
 権力者からみれば搾取の対象でしかない女性たちも、薄汚れた酒場にしか自らの居場所を見出せない男たちから見れば、何度もマーブ(ミッキー・ローク)がつぶやくように、女神である。女性に縁のなかったマーブにとってのゴールディ(ジェイミー・キング)、監獄の独房にいる罠にはめられた元刑事ハーディガン(ブルース・ウィリス)にとってのナンシー(ジェシカ・アルバ)は、彼らにとっての生きる目的そのものとなる。そしてその戦いは必然的に権力との戦いとなる。
 守られるべき純粋な女性ナンシーも確かに魅力的だが、それ以上に生き生きとしているのは武装して自らを守る娼婦たちである。女性が自警する街オールドシティをマフィアが狙うエピソードでは、ドワイト(クライブ・オーウェン)は女性を守るだけでなく、女性と共闘している。娼婦のリーダーゲイル(ロザリオ・ドーソン)の周りを威嚇する迫力もいいが、アクションシーンで格好いいのはミホ(デヴォン・青木)である。刀を持った彼女がドワイトを助けて活躍する場面、そして銃を持った大勢の娼婦たちが一斉にマフィアに向かって銃を乱射する場面での男女の共闘は、この映画の中で最もすばらしい。