逆境ナイン

 原作は未読。笑いのタイミングを演出するのは難しい。監督やCG製作者が笑わせようと意図したところ、特にセリフが巨石になるところは、テンポが遅すぎて観客の笑うタイミングとずれてしまう。実際には堀北真希田中直樹がセリフを言った瞬間に客は笑っている。巨石に刻まれたセリフをゆっくりカメラでなぞってもそこで笑う人はいない。原作のセリフがもっている力(ちょっと読んでみたくなった)やそのセリフを言う俳優の力をもうちょっと信じてもいいように思う。実際、力を入れて引き伸ばした演出をしなくても、玉山鉄二や他の若い俳優たちの熱血演技とセリフだけで十分笑える場面が多かった。例えば、笑わせようとあまり力の入っていない「クラスの暇な人」というセリフ(とそれを何度もいう玉山)がなぜか妙におかしい。玉山鉄二は熱血過ぎて笑える、あるいはばかばかしいけどちょっと感動するというバランスを保っていてよかったと思う。
 田中直樹は熱血という感じではないので原作の雰囲気とはたぶん違うと思うが、元々持っている脱力感と二枚目気取りのキャラとのミスマッチが変でおかしいし、そのミスマッチを計算してやっているように思う。三塁に向かって走るとかネタはベタだけれどひょろひょろした体で走っている姿自体が笑える。藤岡弘は熱血過ぎて笑えるという、この作品にふさわしいはずの俳優だが、計算して笑わせる人ではないので、意外と笑える場面はあまりない。ただ、浜辺で戯れているところなど、明らかになじまない場所に放り込むとかなりおかしい。