容疑者 室井慎次

 それほど複雑とも思えない事件が、警察庁、警視庁、検察、公安、弁護士(八嶋智人)がからむことで複雑な様相を呈していき、真相は見えなくなっていく。多くの関係者が自分の地位と利害を追い求め事件の真相解明になんの情熱も持たないのに対して、主人公の室井慎次柳葉敏郎)だけが真相を追い求める。
 権力に関わっている人たちの描写が薄っぺらで、権力者同士の駆け引きも単純でスリリングなところがなく、話の展開に緩急もなく淡々と話が進んでいく。哀川翔をはじめとする室井を慕う部下たちもそれほど活躍する場面がない。室井が自ら真相にたどりつくということではなく、結局外部から真相がもたらされるという展開も物足りない。
 製作者の意図としては事件が主題ではなくそこに巻き込まれた主人公のキャラクターを描くことが目的なのだろう。ただ、寡黙で誠実な主人公がいくら魅力的とはいえ、室井賛美だけで2時間もたすのは難しい。個性的な刑事たちとの捜査会議やスリーアミーゴーズとの面会場面は面白かったが、それは主人公のキャラクターが他の個性的なキャラクターとの対比で初めて生きてくるものだからだろう。
 新米弁護士役の田中麗奈は、前半のナレーションには冷や冷やしたけれど、男性たちに物怖じしないキャラクターによく合っていたと思う。相手をにらみつけてきつい言葉をあびせ、すばしっこく走り回る彼女は、ニコニコ笑っているCMの彼女よりも魅力的だ。