タッチ

タッチ スタンダード・エディション [DVD]
 幼馴染の浅倉南長澤まさみ)と上杉兄弟(斉藤祥太斉藤慶太)の三角関係が思春期に入って変化していく前半部分はわりとうまく演出されていたと思う。二つのキスシーンや三人でのキャッチボールの場面などには、互いへの配慮から恋愛関係に移行することに躊躇する三人の心理がよく出ている。
 和也の死後、互いに好意をもっているはずの南と達也が前に進めなくなってしまう後半部分は、二人の心理を表すいい場面というのが前半に比べると少なかったように思う。最初から達也が好きだった南と、達也としてではなくあくまで和也の夢を果たす代役として生きようとする達也の間のすれ違いが続く。特に自分が甲子園に行くことが死んだ弟の夢の実現なのか、それとも弟の夢を奪うことになるのか、南と恋愛関係になることは弟の思いを受け継ぐことなのか、それとも弟からすべてを奪うことになるのか、迷い続ける達也の心理の揺れが表現された場面がもう少しあればよかった。
 気になったのは野球経験者が演じている野球の場面だ。言葉数が多すぎる実況のせいなのか、編集のリズムのせいなのか、テンポが悪く実際にゲームを見ているときの興奮からは程遠い。また、場面を盛り上げるためにスローモーションを多用しているが、かえってスポーツの躍動感を殺してしまっている。球場に向かって浅倉南が走っている場面のほうが躍動感があるというのは、スポーツの場面としては問題があると思う。
 主役の三人は微妙な心理の揺れをうまく表していて、動きにも躍動感がある。原田(RIKIYA)、孝太郎(平塚真介)、上杉の母(風吹ジュン)、ボクシング部のマネージャー(安藤希)、新田(福士誠治)など、主人公に関わりをもつ脇役を演じた俳優たちにも少ない出演場面の中で存在感を発揮している。