サヨナラCOLOR

サヨナラCOLOR スペシャル・エディション [DVD]
 思い焦がれ見つめ続ける男と、見つめられる女がいる。高校の時同級生だった二人は、医者と患者として再会する。女は子宮がんを患っていて、医者である男も実は肝臓を患っている。片思いでただ遠くから見つめるだけの存在だった女性が、男の側にいる。日常生活の中では近づくことさえなかったはずの二人が交流を深めていくのは死の淵である。男のしつこいくらいの配慮によって、女は死の淵から生に向かっていき、その代償として男は死の淵に近づいていく。だから二人は全く逆の方向に向かって進んでいて、いずれサヨナラの時が来ることに男は気づいている。
 二人が少しずつ近づいていく場所は、彼女の病室である。窓からは海が見え、病室には未知子(原田知世)が作ったガラス細工のランプが置かれる。窓から差し込む光やランプの光が、原田知世の顔に陰影を与えている。筆談やカーテンを使った影絵など、二人が心を通わせていく場面の演出がすばらしい。また、窓から見える夜の病棟の屋上が一本の電燈でぼんやりと照らされていてまるでステージのようで、ここで正平(竹中直人)が踊る場面もいい。
 二人が心を通わすもう一つの場所は海岸である。砂浜と空と海以外何も見えない空間で、二人は孤独で世界で二人ぼっちのように見える。同窓会など第三者がいる場所では相変わらず近づけない二人だが、ここにくると近づくことができる。鳥の死がいが横たわっていることもあるこの抽象的な場所は生と死の境界線であり、二人のサヨナラの場所にもなる。
 二人はもう中年であり、当然男女関係がある。未知子には女癖の悪いデザイナーである夫(段田安則)がいる。しかし二人の間にはかつての恋愛関係はもうなく、病室に夫が訪ねてくることもまれである。だからこそ、見捨てられた彼女にとって正平がしつこくやってくることは救いになる。正平には小料理屋のおかみ(中島唱子)と援交少女(水田芙美子)がいる。ただ、正平とこの二人の女性の間には性の気配が希薄である。おかみとは相撲をとったりマッサージをしてもらったりする場面があり、ここではおかみのほうが正平を見守り続けている。少女との関係も、少女のほうが親しみを感じて付いていくような関係である。看護婦のお尻を触ったりして一見だらしなく見える独身男性の正平には、女性を安心させる奇妙な魅力がある。一度大人の男女関係を通過した二人が、自らの死を予感しながら、静かで穏やかな関係を作り上げていく。そしてこの穏やかな空気感をクラムボンハナレグミ、ナタリーワイズの音楽がサポートしている。
 しかし、この関係は死を前にしたつかの間の出来事であることを正平は知っている。未知子は生のほうに向かい、正平は死のほうに向かっている。それを知っているから正平は彼女の夫に忠告までするのだ。だからベッドに横たわった未知子が正平の手を握りプロポーズする場面は、二人が最も近づいた瞬間であると同時に、終わりの瞬間でもある。誰よりもこの瞬間を夢見ていたはずの彼は、それが実現できない夢であることを知っている。