ランド・オブ・ザ・デッド

ランド・オブ・ザ・デッド ディレクターズ・カット [DVD]
 人間社会が富裕階級と貧困階級にはっきりと分けられ、さらに電流が流れる鉄線の向こうにはゾンビが徘徊している。食料を確保するには外部に出なくてはならないのだが、それは貧困階級から金で雇われたものが危険に身をさらしながら行う。ビル内部にいる富裕階級の人々は外部の恐ろしい世界など存在していないかのように消費社会を享受している。そして武器を持たず動きの遅いゾンビはある種の社会的弱者にさえ見える。この設定には現在の社会情勢が色濃く反映されている。
 一人称視点でゾンビを撃ち殺していくテレビゲームと違い、美しい花火に見とれてしまい一方的に撃ち殺されるゾンビとそれに怒りの叫びをあげる黒人のゾンビリーダーの描写で始まるこの映画では、観客は一方だけに感情移入することはできない。この映画のゾンビの描写には彼らが元人間であることを観客に意識させるものになっている。貧困層のリーダーライリー(サイモン・ベイカー)と仲間たち(アーシア・アルジェント、ロバート・ジョイ)が戦う場面ではゾンビは恐ろしい敵なのだが、彼らは同時に人間同士の抗争にも巻き込まれている。この抗争のせいで街の防御にすきが生じる。人間同士の友情や駆け引きもそれなりに面白いが、しかし真の主役は彼らではないのかもしれない。
 知能が芽生え始めた一人のゾンビに率いられ、ゾンビの集団が次々と境界線を突破して富裕階級の住むビルに近づいていくのがこの映画の見所であり、ゾンビ映画には似合わない言葉だが、感動的とさえ言える。集団で動くことや道具と武器を使うことを覚えることで、柵を倒し、街に近づいていく。特に今までは超えられなかった川を渡る場面はすばらしい。夜の川の水面からゾンビたちが次々と顔を出し、まるで約束の地を目指すように前に進んでいく。そして遂に富裕階級が住むビルの入り口の強化ガラスを道具で打ち破る。逃げ惑うビルの住人は、自らを守ってくれるはずの電流鉄線によって逃げ道を失う。この場面の絶望感はなんともいえない。