リンダ リンダ リンダ

リンダリンダリンダ [DVD]
 冒頭、映画部の学生がカメラマンと被写体の女学生との間で右往左往している。プロではない学生が行う文化祭の準備というのは、こういう要領の悪い無駄がたくさんある。そして効率性を求めるプロなら切り捨てるべきこの寄り道の時間こそが、文化祭の楽しさである。バンドの4人(ぺ・ドゥナ前田亜季香椎由宇関根史織)が練習場所を確保できずに門の脇で座っている場面のように、特に何をするでもなく友達とボーっとしながら一緒にいる時間こそ、学校生活独特のものであり、学生自身はその時気づいていないかもしれないが、それはやがて失われてしまう時間である。あるいは、そういう寄り道の時間を共有できる相手こそ友達と呼べるのだ。土手を練習帰りの4人が歩いていく場面の美しさ。山下敦弘監督は他の監督なら無駄と切り捨ててしまうかもしれない大事な時間を拾い上げている。
 部室での曲探し、徹夜の練習のための買出し、夜の学校での練習や食事、彼女たちの行動はいつも目的から少しそれていくことが多いのだが、それが見ていて楽しい。目標地点に最短距離で行くことなど彼女たちは求めていない、そもそも演奏自体に「意味なんかない」のだから。
 クラブ内のごたごたにうまく関われず距離をおいて4人を見つめる軽音楽部の先生(甲本雅裕)は、この映画の視点に一番近いのかもしれない。夜の校舎の中で部室から流れてくる演奏を離れた宿直室で彼は聞いている。部室の外から彼女たちの演奏を写している場面の距離感のすばらしさ。あるいは、彼女たちに惹かれながらも4人の輪の中には入れない男子学生たちの視点。
 4人の中でも際立ってすばらしいのはぺ・ドゥナである。よく分からないままバンドに入る返事をしてしまう場面、カラオケボックス、そして告白される場面のおかしさは彼女独特の間が面白い。それでいて、一人でいる場面(たった一人で韓国文化の展示を準備している)では留学生の孤独をさりげない演技でこちらに感じさせる。そして孤独から救ってくれたメンバーへの感謝の気持ちを表現する夜の体育館の場面やトイレの鏡越しに恵に感謝の言葉を伝える場面は、彼女の孤独を感じとっている観客にとっては胸をうたれる場面である。
 雨でずぶ濡れになった「ドブネズミのように美しい」彼女たちが演奏する最後のハイテンションのライブシーンに、誰もいない校舎が挿入される。みんなあと数ヶ月すれば終わってしまう時間なのだ。しかしそんなしみったれた情緒などに浸ることなく、彼女たちは「終わらない歌」を歌う。それは「ひとりぼっちで泣いた夜」を過ごしたかもしれないソンのための歌でもある。