2005-01-01から1年間の記事一覧

亡国のイージス

映画の序盤、若い乗組員たちが地上で乱闘事件を起こしたとき、先任伍長仙石(真田広之)は警官に土下座することでその場を収める。彼の行動は部下を救う勇気の表れなのか、卑屈な弱さの表れなのか。部下の一人如月(勝地涼)の眼には、最初それは弱さにしか…

亀は意外と速く泳ぐ

三木聡監督本人が小ネタ主義と言っているように、小さな脱力ギャグが連発されるのだが、これと上野樹里の相性が非常にいい。個性派俳優がたくさん出演しているが、面白さの理由はそれだけではない。彼らの横で困った顔をして小首をかしげている彼女が受けの…

アイランド

車がひっくり返ったりやたらと物が壊れたりするアクションシーンはいままでのマイケル・ベイ監督の映画とあまり変わらない。面白いのは臓器移植をテーマにした脚本のアイデアである。 我々が相反する二つの欲望を抱えながら生きていることをこの物語は観客に…

姑獲鳥の夏

現実認識の脆さに関する京極堂(堤真一)の長い薀蓄から始まるこの映画は、関口巽(永瀬正敏)が現実感覚を失っていく様子を、かなり特殊な演出方法で表現しようとしている。画面を斜めにしたり逆さにしたり回したり、特殊なレンズで撮影したりしていて、あ…

逆境ナイン

原作は未読。笑いのタイミングを演出するのは難しい。監督やCG製作者が笑わせようと意図したところ、特にセリフが巨石になるところは、テンポが遅すぎて観客の笑うタイミングとずれてしまう。実際には堀北真希や田中直樹がセリフを言った瞬間に客は笑ってい…

スターウォーズ エピソード3 シスの復讐

シリーズ全体に言えることは、どんな窮地も冗談を交えながら切り抜けてしまう楽天性と、親子が善と悪に分かれて対立するという悲劇性が両方存在するということだ。旧シリーズでは楽天性のイメージのほうが強かったと思うし、悲劇性を体現するような役者は(…

フライ、ダディ、フライ

風を切って走り空へと舞い上がるというテーマは作品全体に見られる。映画の冒頭で、打ち上げ花火が上がっている空から地面を這うように進む電車を見つめる視点から映画は始まる。電車には主人公の鈴木が乗っているが、仕事に疲れた彼には空を見上げる余裕も…

宇宙戦争

戦争という言葉から、兵士たちが二つの陣営に分かれて撃ち合うゲーム的な戦争をイメージする人が多いだろう。観客はどちらかに感情移入し、自分の攻撃衝動を満たす。しかし、ここで描かれているのは、そのような戦闘の脇で右往左往し、破壊と殺戮から逃れよ…

バットマン・ビギンズ

バットマンが普通の正義のヒーローものと違うのは、正義と悪が明暗としてくっきり分かれているわけではなく、主人公もまた闇の住人であることだ。だから悪役たち(bad)と主人公(bat)との差異は常に紙一重である。 悪役たちが町を牛耳る手段として用いるのは恐…

ザ・リング2

中田秀夫監督ほど周りの期待と本人の資質のずれを感じさせる監督もいないのではないだろうか。彼の他の作品を見ると、彼はなによりもまず女優の表情をとることに執着しているように思える。リングも彼にとっては松嶋菜々子を中心とした母子と夫妻の物語であ…

Musical Baton

azukihazukiさん、バトンありがとうございます。バトンなので本来なら次に渡さなければならないんですが、普段あまり音楽関係のサイトを見ないことと、普段訪れている映画関係のサイトもすでに受け取っている状態であるということで、次への受け渡しは辞退さ…

オペレッタ狸御殿

互いに相容れない二つの陣営(人と狸)の姫と若君の恋というと、ロミオとジュリエットのようなパターンを想像する人が多いだろう。相対する二つの力が直線的に激突し、二人の恋は引き裂かれるという、古典的なパターン。しかし鈴木清順監督にとって、陣営を…

電車男

原作の主人公のイメージを忠実に再現するのではなくて、世間が抱いている典型的なオタクのイメージに近いルックスで主人公は登場する。オタク特有の行動や失敗談が笑いのネタになっているのだが、それ自体は特に目新しいものではない。山田孝之が前半と後半…

 ライフ・アクアティック

ベラフォンテ号の中には様々な人種、国籍の乗組員たちがいる。一応英語が標準語として使われているが、デヴィッド・ボウイをポルトガル語で熱唱する黒人乗組員(セウ・ジョルジ)、チューリッヒからやってきた銀行員(バッド・コート)やズィスー(ビル・マ…

ミリオンダラー・ベイビー

ジムの片隅で夜になっても一人で黙々とサンドバッグを打ち続けるマギー(ヒラリー・スワンク)には、前向きに生きる強い意志が全身から感じられる。そしてそれは映画の最後までそうなのだということを強調しておきたい。精神的に堕落した家族から離れて一人…

炎のメモリアル

一人の消防士の半生を短いエピソードを連ねて見せる構成は伝記映画などにもよくあるもので、どうしてもダイジェストを見ているような気分になりがちである。平和な日常生活と命を落とすかもしれない恐ろしい火災現場が交互に映し出される構成は、映画として…

ザ・インタープリター

ただ守られている女性ではなく、人には話せないある秘密の過去と悲壮な決意を秘めている国連通訳をニコール・キッドマンが、持ち味のシャープな存在感を生かして好演している。個人的には華美なドレスよりも、この映画のような働く女性らしい黒いパンツルッ…

キングダム・オブ・ヘブン

物語の核になる人間関係、例えばバリアン(オーランド・ブルーム)と父(リーアム・ニーソン)の絆とか、バリアンとシビラ(エヴァ・グリーン)の恋愛関係などの描写がやや薄い気がするのだが、撮影したシーンをかなりカットしたらしい。また後でDVDの完全版…

デーモンラヴァー

女性が罠にかかって倒錯的な世界に堕ちていくという物語ならいくらでもあるが、この映画はそれとは少し違う。主人公の女性(コニー・ニールセン)が堕ちていくのは倒錯的なサイトにアクセスしているパソコンの小さな画面の中なのだ。パソコン画面を見つめて…

交渉人 真下正義

列車がいつぶつかるか、爆弾がいつ爆発するかというサスペンスとパニックは、映画に適した題材であり、今まで色んな映画で取り上げられてきた。ただ、この映画がこのジャンルに新しく加えたものはあまりなく、過去のアニメや映画の引用からできている映画と…

コーヒー&シガレッツ

登場人物たちの多様性にまず驚く。人種、年齢、国籍、社会的地位、趣味、性格、話し方が異なる登場人物たちがコーヒー(時には紅茶)とタバコによって緩やかにつながっている。彼らの会話はいつも微妙なずれをはらんでいて、双子やいとこ、親子間の会話であ…

真夜中の弥次さん喜多さん

江戸から伊勢に向かう道程を、ぺらぺらした紙のような現実の狂騒から死の領域まで自在に行き来しながら描くしりあがり寿の傑作漫画の映画化。監督は宮藤官九郎。豪華な脇役を使ったギャグ(松尾スズキと古田新太の使い方はかなり笑えた)の連続と主役二人(…

甘い人生

フィルム・ノワールの陰影に富んだ画面に、ブラックスーツに身を包んだ直線的な顔立ちのイ・ビョンホンはよく似合っている。主人公のソヌが住む世界は濃い影が支配的な裏の世界だが、ボス(キム・ヨンチョル)の愛人であるヒス(シン・ミナ)の周りには、時…

Shall we Dance?

日本版を見ている人には文化の違いを考えながら見ると面白い映画だ。アメリカ版で好印象なのは夫婦間のやりとりが大人の男女のものであることだろう。日本版では夫が妻にダンスを教える場面で夫の態度はぎこちなく、子供の助けをかりなくてはならない。もち…

インファナル・アフェアⅢ

確かなものと思われていた善と悪の境界線が、「潜入」の存在によって揺らぎだす。潜入の仕事を全うするためには、相手の世界に染まってしまわなければならない。善の側の潜入は、凶暴な悪の仕事をこなすうちに、内にある凶暴性をコントロールできなくなる。…

コンスタンティン

物語の中に人間、天使と悪魔、そして神という三つの階級がある。(ただし神は登場人物としては登場しない。)主人公のコンスタンティンは人間だが、人間界に入ってこようとする悪魔を追い返す悪魔祓いである。コミックを原作としているが、ちゃんとキリスト…

大統領の理髪師

タイトルにある「大統領」という言葉が示すように、政治が主題になっているが、直接的に政治的メッセージを主張する映画ではない。政治を見つめる視点が常に低く設定されていて、そのことが映画にユーモアをもたらしている。例えば、ナレーションは理髪師の…

ナショナル・トレジャー

宝を追いかけていたグループが仲間割れして二つに割れてしまい敵対関係になる。独立宣言書を守る役目の女性研究員(ダイアン・クルーガー)と、盗み出す主人公(ニコラス・ケイジ)はもちろん最初は敵対関係にあるが、やがて行動を共にすることになる。宝探…

またの日の知華

原一男監督初の劇映画。「堕ちていく女性の一生」と要約できる物語の中で描写されている、観念的な女性像に対する違和感を最後まで持ちながら見た。堕ちていく過程をよりドラマチックにするために、少女時代の知華を、不幸の影を負っているが「まだ汚れのな…

エターナル・サンシャイン

いつもは文芸映画などでヨーロッパの女性を演じることが多いケイト・ウィンスレットが髪を派手に染めた、衝動的に行動する女性クレメンタインを演じ、いつもはアドリブを交えて早口でしゃべりまくるジム・キャリーが自分について多くを語らない無口な男性ジ…