ダーク・ウォーター

ダーク・ウォーター プレミアム・エディション (初回限定生産) [DVD]
 映画の最初から最後まで、戸外の場面では必ず雨が降っていて、段々と雨に閉じ込められていくという閉塞感を、私たちは主人公のダリアと共有していくことになる。ダリア(ジェニファー・コネリー)とセシリア(アリエル・ゲイド)親子が住むアパートは明るい色が全くない冷たい空間で、室内に入り横になると天井には気味の悪い黒いしみがあり、そこから黒い水がぽたぽたと滴り落ちる。ウォルター・サレス監督は最後までこの親子を湿った薄暗さの中に閉じ込める。ルーズベルト島、いつも床が湿っているエレベーター、コインランドリーの内部、屋上の貯水タンク、風呂場など、この映画は私たちにこの閉塞感から逃れる時間を全く与えない。日本版(仄暗い水の底から)のホラー映画の怖さとは違う、神経を侵されていくような恐怖がこの映画にはある。
 物語の中心にあるのは、親から見捨てられた子供の孤独である。ダリアには母親から愛されなかったという記憶がトラウマになっていて、それが偏頭痛として表れる。離婚協議中の彼女は、子供の親権をめぐって夫と争っており、心理的に不安定になっている(ジェニファー・コネリーの繊細な演技がすばらしい)。上の階に住んでいた少女ナターシャ(パーラ・ヘイニー=ジャーディン)も親や周りの大人から見捨てられた子供であり、ダリアの少女時代と同じ少女が演じている。アパートは部屋が密集しているにも関わらず住人同士の人間関係は希薄で、子供を見守る共同体は形成されていない。安定した親子関係は存在せず、一人の子供を父母が奪い合い、一人の母親を生きている子供と見捨てられ死んだ子供の幽霊が奪い合う。
 幽霊自体が怖いというより、この親子が生きている世界自体がどこか狂っていて恐ろしい。この母子家庭の親子がなぜここまで孤独のなかに追い込まれていくのか。学校の教師や弁護士のように比較的良心的な登場人物もいるが、積極的に関わろうとしない人がほとんどである。そしてこの隙間に、体から温もりを奪っていく、黒く冷たい水が入り込んでくる。ダークウォーターとは、私たちの冷たい無関心の象徴なのだろうか。