ブラザーズ・グリム

ブラザーズ・グリム DTS スタンダード・エディション [DVD]
 少女失踪事件が起こるマルバデンの森の雰囲気がいい。日があまり差し込まない薄暗い森の中で、赤い頭巾の少女がいなくなる場面や、危険と知りながら奥に進んでしまうヘンデルとグレーテルの兄妹の場面、グリム兄弟(マット・デイモンヒース・レジャー、私にはマットは童顔のイメージがあるので兄という役割にやや違和感が・・・)が方向感覚を失っていく場面などは、森の危うい魅力が感じられる。また、その森の中に建っている、女王(モニカ・ベルッチ)が住む廃墟のような古い塔など、壊れそうで危ういのに中に入りたくなる雰囲気がある。
 フランス占領下のドイツという設定なので、フランス人とドイツ人の上下関係が前面に出ていて、それが近代と土着の自然の対立関係というより大きなテーマにつながっている。これはグリム兄弟の本が受容されていく歴史的背景を説明する役割も果たしている。秩序と理性のフランス軍が森に火を放ち、その火を女王が一息で吹き消してしまうというすばらしい場面もある。ただ、魅力的な森や塔を前にして人間同士が足を引っ張り合う場面がかなり長く、かなり大げさな演技なので、近代側のジョナサン・プライス(将軍)とピーター・ストーメア(拷問係)を中心としたブラックジョークのバカ騒ぎを楽しめない人にはつらいと思う。テリー・ギリアム監督の視点は当然民話の側に置かれていて、グリム兄弟が近代の側から土着の村の側へと移行していく過程が物語の中心となっている。