ティム・バートンのコープスブライド

ティム・バートンのコープスブライド 特別版 [DVD]
 チョコレート工場では原色の世界に観客を引き込んだティム・バートンだが、今度は明るい日差しが入り込まない世界の中で、曲がった細い線と青色で観客を魅了する。
 冒頭、ビクター(ジョニー・デップ)が丸く曲がった軸の羽ペンで画用紙に優美な曲線を描く場面からこの映画は始まる。それは美しい蝶を描写する曲線で、以後、我々は人形たちの細い手足が生み出す運動に圧倒されていく。酒場での骸骨(ダニー・エルフマン)のダンスは、骨の細い線がしなるように動き、その運動性が最大限に発揮される場面である。また、ビクターの細く長い指はピアノで美しいメロディーを生み出すことによって、二人の女性の心をつかんでしまう。彼がビクトリア(エミリー・ワトソン)の家でピアノに視線を向けたとき、その上には細く曲がった花の枝が花瓶にさしてある。曲がった羽ペンと曲がった枝、二人は同じ感性で結ばれている。そして死体の花嫁エミリー(ヘレナ・ボナム・カーター)の優美な細い手足の動きは、月光の下でのダンスやビクターと一緒にピアノを弾く場面で、官能的な魅力を発揮している。彼女の周りでは蛆虫マゴットや蜘のような曲線的な生き物たちが彼女をサポートしている。
 冒頭の場面に戻ると、蝶は曲線だけではなく青い羽で主人公を魅了している。灰色の世界の中でこの色はひときわ美しく見える。そしてこの色こそ、エミリーの美しい肌の色なのだ。最初の登場場面ではホラー映画風に恐ろしい姿で主人公を追いかけるのだが、やがてこの青い色の手足、生気を失っているはずの青い肌が官能的に見えてくる。特に夜の月光の下では、一段とその魅力を増す。青い髪、枯れたブーケの青い色、そして月光の下ではボロボロの花嫁衣裳も青っぽく見える。彼女の姿は、冒頭に出てきたあの青い蝶と同じく、曲線と青色で主人公を魅了している。だから最初は彼女が彼を追いかけているが、いったん地上から戻った後、彼が彼女に事情を説明した後、がっかりして去っていくときのあの美しい後姿を見てしまった後では、彼のほうが彼女に惹かれているように見える。
 終盤では村の死者と生者が仲良く手をつなぐという、バートンらしい展開があるのだが、それでも生と死の世界の境界線はあり、三角関係は終わりを迎える。しかし三角関係から身をひくものは敗者ではない。むしろ誇りに満ちた満ち足りた表情でその場を立ち去る彼女には美しい月の光が注がれていて、この美しいラストシーンは震えるほどすばらしい。そこでは青色は浄化されたような月の透明な光へと変わるのだ。