コラテラル

 タクシー運転手のマックス(ジェイミー・フォックス)と殺し屋ヴィンセント(トム・クルーズ)、偶然一夜行動を共にすることになった男同士の関係に的を絞った物語で、それ以外の要素はこの二人が行動を共にするという設定を支えるためにある。人間関係も女性検事(ジェイダ・ヴィンケット=スミス)を除けばあまり二人に絡んでくることはなく、それが車内の二人の孤独性を際立たせている。ほとんどがロスの夜のシーンで、銃撃戦も派手なアクションや画面効果を抑えたものになっていて、このストーリーにはふさわしい。
 人間的な感情をもつタクシー運転手の抵抗に何度かてこずるのだから、むしろ運転手を殺してしまうほうが仕事が効率よく進められそうな気がするのだが、これは脚本の不備というよりあまり感情を表に出さないヴィンセントの中に微妙な変化が起きていることを示しているのだろう。ターゲットを無表情に殺していき、それを六十億分の一にすぎないと言い放つ彼が、この運転手に六十億分の一以上の何かを感じてしまったことが彼にとって致命傷となる。人間的な感情と知性を併せ持ち、客になった女性検事やヴィンセントにまで魅力感じさせるマックスをジェイミー・フォックスが堅実に演じているが、後部座席で内面を容易に外に表さず口を半開きにした曖昧な表情をしているトム・クルーズは今までの映画とは違う魅力を発揮している。殺し屋としてターゲットを追い詰める怖さみたいなものはそれほど感じられなかったが、タクシー車内でのどこかまだ人間性が残っているように感じられる曖昧な存在感がよかったと思う。