下弦の月 ラスト・クォーター

 原作は未読。複雑な家庭環境で家に自分の居場所がなく、だから恋人の隣にいることが何よりも大切なのに、彼氏の知己(成宮寛貴)が自分の友達と浮気して、自分だけのものと信じていた居場所も失った美月(栗山千明)が、謎めいた洋館でアダム(HYDE)と出会い、自分が相手から必要とされている場所をそこで見つける。この辺りのプロセスで美月の環境や心情が長セリフで説明されたりする演出や物語を語るペース配分には違和感を感じた。美月がアダムと過ごした一週間は、後で二つの場所のどちらを選択するか迷うイブ(栗山千明)にとって大事な体験なので、もう少し丁寧に見せてほしかった。洋館の中の異世界に観客が入っていくのに有効だったのは幻想的なライティングとピアノやギターで何度も繰り返される主題歌のメロディ(アダムがさやかのために作った曲という設定で、美月の意識にも刷り込まれている)で、この曲は物語世界にぴったりはまっていた。美月の物語にアダムとさやか(伊藤歩)の死によって断ち切られた純愛物語が重ねあわされていく後半はせつない物語になっている。
 二人の女性の人生が重ねあわされた存在であるイブを演じる栗山千明は、紺のドレス、長い黒髪、ピアノを弾く長い指など、こういう非日常的な雰囲気がよく似合う女優だと思う。HYDEはセリフ、演技はともかく、外見と雰囲気はこの物語世界にあっているし、主題歌での貢献が大きい。ノリは軽いが根はいいやつである知己を演じる成宮を含む主役三人は役に合った適切なキャスティングで、またイブの謎を追う中学生二人(黒川智花落合扶樹)はおそろいのファッションで街を歩き回るところとかが可愛らしい。