インファナル・アフェア 無間序曲

 前作が二人のスター、トニー・レオンアンディ・ラウ演じる「潜入」同士の緊張感あふれる駆け引きと対決がメインだったのに対し、今作は警察と黒社会の抗争を描く群像劇となっている。若いころの潜入二人ももちろん登場するが、中心となるのはむしろ二人の潜入のボス、ウォン警部(アンソニー・ウォン)とサム(エリック・ツァン)である。ただしサムはまだ今作では香港黒社会のトップではなく、ウォンが対決するのはサムではない。黒社会のトップに君臨するハウを演じるフランシス・ンが、家族に対する穏やかで柔和な表情と、敵に対する容赦ない冷酷さの両面を見せていてすばらしい。ウォン警部とハウとが対峙する場面はどれも緊張感があり、そして最後にウォン、ハウ、サムの三人が対決する場面では、三人がそれぞれ男の色気と凄みを画面上にみなぎらせている。サムはこの場面まで人の良さを感じさせるような役柄だったのが、この場面だけで前作のあの冷酷さを一気に身にまとうことになる。また黒社会の構成員である脇役たちにも存在感があり、特にハウの脇を固めている二人はセリフが少なくても凄みを感じさせて印象に残る。また、三人の結節点に位置し、またラウが潜入になるきっかけにもなっている女性マリーを演じるカリーナ・ラウも裏社会で生きる女の強さを崩さないまま、それでいて複数の男性を惹きつける大人の女性の魅力を漂わせている。
 一人一人のキャラに物語があり、また前作との整合性、次回作の複線もある程度考えなければならないのでどうしても映画のリズムが前作と比べるとやや重い。しかし近頃では少なくなった大人の俳優の色気と魅力で勝負している映画である。