ヴィレッジ

 どんでん返しが売りの映画のように言われているが、正直言って緘口令を敷くほど珍しいものではない。前半こそ村人の感じる恐怖を観客も共有することになるが、多くの観客は徐々にその恐怖の秘密に気づき始めるだろうし、真実が明らかになる瞬間にそれほど衝撃があるわけではない。怖い映画を期待していると物足りないかもしれない。
 話の中心にあるのは、都会人に比べるとはるかに慎ましい控えめな感情表現で互いを思いやる男女のラヴ・ストーリーである。彼らにとって互いが手を握り合うというささやかな動作が他の映画の大胆なラブシーンと同じくらいの重要性を持っている。迫りくる森の怪物の気配に脅えながら、盲目のアイヴィーブライス・ダラス・ハワード)が戸口に立ち、ルシアス(ホアキン・フェニックス)が救いに来てくれることを期待して暗闇へと手を伸ばす場面のすばらしさ。ここでは迫りくる恐怖から間一髪逃れるというサスペンスの要素と、二人が始めて素肌で触れ合うというラブシーンの要素が両方含まれていて、こういう古典的なパターンを演出するうまさがナイト・シャマラン監督の本当の魅力ではないだろうか。また、瀕死の恋人を救うため森を横切ることを決めたときの彼女の盲目のまなざしの強さ。この映画全体が彼女のまなざしの魅力によって支えられているといっていいのはないか。
 また、深い森に囲まれた平和な村という設定にも魅力がある。小さいころから共同体の外部である森の恐怖を村の創設者である年長者たちから繰り返し繰り返し教育によって刷り込まれて育っていく若者たち。警鐘が鳴った後地下室に隠れた村人たちの脅えた表情が平和な生活の裏面である。しかし共同体の結束はこの恐怖によって固められているのだ。「共同体の平和」と「外部への恐怖」という設定が、一見寓話的に見えるこの物語を現代的なものにしている。この村の掟に関する謎を知ったとき、観客の中には赤や黄色に点滅するテロ警告に脅えるアメリカ社会を想起する人もいるだろう。