「LOVERS」

ワダエミデザインの美しい衣装を身につけたチャン・ツィイーが、手につけた長い布を(一部特撮も使われているが大部分は彼女自身の舞踊の能力によって)まるで自分の体の一部のように自在に操り金城武やアンディ。ラウの前で踊るシーンは、二人の男性に愛される彼女の魅力を十分伝えていてすばらしい。また盲目のため周りの音に集中している彼女の表情は、観客にも音を意識させる。
 チャン・イーモウ監督らしい美しい背景で展開するアクションシーンはスローモーションやCGを多用して、躍動感よりも様式美を優先している。武侠映画に誇張はつきものだが正直くどいところもある。ただワイヤーの使用は控えめになっている。
 金城武はロマンス映画の主役として十分なルックスを持っているが、今回彼が演じる隋風は、アクションと繊細な演技の両方が要求される、彼にとっては荷が重い難しい役である。アクションは弓をもったりアップを多めにしたりして何とか撮影の工夫で乗り切っている。しかし心理表現に関しては、予告編で出てきた「謀」という文字からわかるように、本気と演技の入り混じった繊細な恋愛感情の表現が要求される役を十分こなしているとは言いがたい。もちろんこれは役者だけの責任ではなくて演出の問題でもあって、相手の真意をさぐりつつ互いのまなざしを見つめ、なおかつ自分の恋愛感情を抑えることができないというシチュエーション(さらにそれを自分の感情を抑えながら見守らねばならない第三のまなざしもある)は、派手なアクションシーン以上にサスペンス豊かなものになるはずだが、少し物足りなかった。