ダムド・ファイル エピソード・ゼロ

 DVD(ASIN:B0001LNO74)で鑑賞。UNLOVEDを見て、万田邦敏の次回作を早く見たいと思っていたらテレビドラマシリーズの監督として登場した。万田の作品を見たいのは日本人だけではなく、カンヌではこの作品のフィルム版が監督週間に上映された。

 次男を事故で失った夫婦と長男の物語。同じベッドで背中を向け合って眠る夫婦の姿が、二人が死者に対して全く正反対の態度を取ろうとしている事を暗示している。夫は死者を忘却し、新しい生活に踏み出そうとしている。車でトンネルを通るときにスピードを上げて霊を振り切ろうとする場面、あれはまさに死者から身を引き剥がし、忘却しようとする身振りである。一方、妻は子供の遺骨をいつまでも身近に置き、忘却を拒否している。映画の中で何度か繰り返される、南野陽子が死んだ子供の衣服の横で横たわるシーンは、忘却を拒み死者に寄り添おうとする身振りであり、そしてこのシーンはとてつもなく美しい。

 死んだ子供への執着によって壊れていき、死者に会えるトンネルに吸い寄せられていく南野陽子の表情は美しいと同時に霊そのものよりも禍々しい。妻が死んだ子供と向き合い生きている長男に向かい合わず、また夫は長男を気にかけながらも仕事でかまってやる時間がなく、引越しの直後で友人も作れない孤独な長男は、動物の死骸の観察を通じて死の世界へと引き寄せられていく。死の入り口(あのトンネル)の絵を書きなぐり、道を蛇行し始め、心のバランスを失っていく小学生の姿が痛々しい。

 死者のほうへ誘われて分解していく家族。そして最後、死者からの吸引力を断ち切るために夫がトンネルでとる行動が、また恐ろしい。それまでおとなしい常識的な夫を演じてきた野村宏伸が、その表情をほとんど変えないまま、残酷さを露わにする。心霊ゾーンそのものよりも、互いに通じ合わなくなり壊れていく家族の姿が見れる室内のシーンのほうが不気味である。