ミレニアム・マンボ

 DVDで見る。初見。小津にささげる作品が楽しみなホウ・シャオシェン監督の作品。ASIN:B0000DKKVA

 冒頭、青白い蛍光灯の光の中をタバコを吸いながら、黒い髪をなびかせて軽い足取りで歩むスー・チーを後ろから移動撮影で撮っている場面から引き込まれる。ただ、この時の軽やかな足取りとは裏腹に、その後描かれる彼女は不自由な生活の中でもがいている。他者との適切な距離が保てない若い男(ヘッドホンでコミュニケーションを遮断しているか、異様なほど近づきすがろうとするかどちらかしかできない)とのすさんだ同棲生活と、青や赤の原色の光で彩られた夜の街での生活。抜け出そうとしても何度も引き戻されてしまう。夜の生活で知り合った中年男との生活に一時の安息を見出すが、彼は地下世界のもめごとに巻き込まれて日本に旅立ち、消息を絶つ。この中年男を演じるガオ・ジェは穏やかな優しさと危険な雰囲気を両方表現していてすばらしい。また、不自由な生活の中でも奔放な生命力を感じさせるスー・チーもすばらしい。

 夜の世界のどぎつい光から、雪の日本の場面への転換も見事で、自然光の光あふれる場面になるとほっとする。ただ、そこには彼女を待っているはずの中年男性の姿はない。だから彼女にとって時間の流れは、雪遊びのシーンで雪につけられた彼女の顔の跡の様に、凍りついたまま止まってしまってるように見える。ではこの物語を、10年の距離を持って語っている彼女、画面には現れず声だけを聞かせる未来の彼女はまだ待ち続ける女性なのか、それとも冒頭の場面のように軽やかな足取りを回復しているのか。

 色彩設計、巧みな時間操作、的確な演出などが味わえる傑作。新作が楽しみです。