Kill Bill Vol.2

 Vol.1 の青葉屋の決闘のような派手なアクションは少ないが、俳優の存在感を生かした演出の冴えを充分堪能できる映画です。これほど魅力的で色気のある悪役が登場するアメリカ映画は久しぶりじゃないだろうか? まず、酒場の用心棒として怠惰な生活を送りながらも、殺し屋としての狡猾さは失っていないバド。ブライドを返り討ちにして生き埋めにするあたりの嬉々として悪いことをする表情がいい。レザボア・ドッグスを思い出しますね。そしてこのバドのさらに上をいく悪女エルを演じているダリル・ハンナはどうしてこれほど片目が似合うのか?バド相手にしたときにはバド以上の狡猾さを発揮し、ブライドとの対決シーンはVol.2の中では数少ないアクションの見せ場となっています。これまたバド以上に嬉々として悪事を働き、自分のした悪事を語ってみせる。 そしてなんといってもデビッド・キャラダイン! ビルはブライドが心から愛した唯一の男性であり、暗殺団のリーダーであり、B.Bの父親でもあるのだが、それぞれの側面で必要となる男の色気、次に何をしでかすかわからない狂気、子供を前にしたときの穏やかな優しさ、そのすべてをキャラダインは見事に表現している。彼が派手なアクションを披露するシーンがないので、物足りないと思う人もいるのかもしれませんが、次に何をするのかわからない緊張感を何気ないセリフやしぐさに漂わせていてたまりません。教会での虐殺前のブライドとの会話、ブライドとB.B.の前でサンドイッチを作っているシーンなどいいですね。

 前作では単調な殺戮マシーンにみえたかもしれない主役のユマ・サーマンもVol.1以上の豊かな表情を見せてくれる。痛みにもだえ、死の恐怖におののき、復讐の怒りに震え、子供の前では母性的な表情を見せ、ビルの前では復讐の憎悪と情熱的な愛情の入り混じった表情を見せる。これだけの悪役たちと対峙しても存在感がかすむことのない女優はなかなかいないと思います。

 パンフレットに載っている、この映画における倒錯的な愛の気配を指摘する蓮実重彦の文章は読む価値のあるものだと思います。引き伸ばされた死といえば栗山千明も絶命した後ゆっくりと血の涙を流す場面がクローズアップでありましたね。死の瞬間をゆっくりと引き伸ばした形でカメラに収めてもらっているのは、気に入られている証拠かもしれません。