ホテル・ルワンダ

ホテル・ルワンダ サウンド・トラック
 普段混ざり合って生きている人々の間に、突然線が引かれる。そしてどちらの側に所属しているかによって、彼らの生死が決まる。ルワンダフツ族とツイ族の間の差異は、彼らでさえIDカードを見なければ確認することができない。しかし、植民地支配の政策として強化されてきた差異は、ベルギーから独立した後も彼らの意識に深く刷り込まれている。ラジオで虐殺を煽る放送を流し続ける男のあの異様な執念はいったいどっからくるものなのだろうか。
 観客にとって印象に残るのは、もう一つの差異である。それは雨が降る中、救出のバスが止まっているホテルの前で引かれる。国連軍によってホテルから救出される外国人と、取り残されるツチ族の避難民たち。世界から生き残るべきと見なされた人々と、見捨てられた人々の間に、見えないが確実に存在する線が引かれる。海外資本のホテルで重要な地位にまで上り詰めた主人公のポール(ドン・チードル)は、自分がどちら側の人間なのか改めて意識させられる。しかしポールはこの見えない差異を、無防備なホテルを守る防壁として利用し始める。海外資本のホテルにフツ族の兵士たちはなかなか手が出せない。電話やファックスで積極的に海外に働きかけ、政府軍にも欧米の監視があることをほのめかす。執拗に執念深く攻撃してくる相手と交渉術で立ち向かうポールとのやりとりは映画として見所のあるサスペンスになっている。
 最初は隣人をかくまうことさえ嫌がっていた男が、最後は自分が脱出するチャンスさえ捨ててホテルの避難民を救おうとするプロセスを、ドン・チードルが見事に演じている。迷い、弱さ、繊細さなどを表現する彼の表情によって、この映画のポールはヒーローではなく普通の人間として存在している。