ジャーヘッド

ジャーヘッド-アメリカ海兵隊員の告白
 主人公スオフォード(ジェイク・ギレンホール)が体験するのは敵と直接接触することのない奇妙な戦争である。訓練や上官の扇情的な演説によって殺意を高められた若い海兵隊員たちは、一国も早く銃を撃ち敵を殺したくてたまらない衝動に駆られるが、彼らの周りには砂漠が広がるばかりで銃を撃つ機会など全くない。出口のない衝動はやがて味方や自分自身に向けられはじめ、彼らの精神は変調を来し始める。曹長ジェイミー・フォックス)や仲間同士(ピーター・サースガード、ルーカス・ブラック)のやりとりなどは青春映画らしい楽しさがあるのだが、長すぎる退屈な待機時間の中でそこに狂気が忍び寄っていく様子が丁寧に描写されている。
 戦争が始まっても、彼らは戦況もわからずただ銃撃の中を右往左往するだけである。ようやく前進すると、そこには空爆によって一瞬のうちに黒こげになった敵兵の死体がある。テクノロジーによって支えられた戦争の進行するスピードがあまりに速く、兵士たちはただその後始末をするだけの存在に過ぎない。敵とできるだけ接触を避けるためにとられる手段である空爆は本来味方の被害を少なくするはずだが、皮肉なことにそれは味方への誤爆を生んでしまう。 憎しみや怒りすら発生する余地のない戦争は、まるでプログラムのように自動的に進行していく。
 では、一人も殺すことなく帰還した彼らは、ベトナム帰還兵のような後遺症に苦しめられない幸運な兵士たちといっていいのだろうか。彼らはまた普通の市民として暮らし始める。しかしスオフォードの部屋のテレビには戦争映画がつけっぱなしになっている。海兵隊員の入隊儀式として行われる焼き印が象徴するように、人殺しの訓練を受けた彼らには消えない「戦場」の刻印が押されている。スオフォードが語るように、ライフルの感触が手から消えることはない。