[映画] 子猫をお願い

 高校時代親友同士だった五人の女性たちは高校卒業後も定期的に会い続けている。しかし高校時代にはさほど意識しなかったであろう育った環境や経済状況の違いがその関係に亀裂を生じさせる。かつてなら楽しかったはずの五人での買い物も、親のコネで証券会社に入ったヘジュ(イ・ヨウォン)と両親の顔もろくに知らず祖父母とバラック小屋に住むジヨン(オク・ジヨン)との差を残酷に露出させる体験でしかない。就職先を探すにも「保護者」の紹介を求められる韓国社会の中で二人の差は決定的である。後にジヨンが警察に拘束される時にも両親がいないことが彼女を不利にしてしまう。
 家族や親族との関係は五人それぞれ違う。ヘジュの両親は最近離婚した。自分は自分、他人は他人という彼女の性格は両親の不和から自分の身を守るために身につけた冷たい鎧のようなものだ。テヒ(ペ・ドゥナ)の家庭は家父長に統率された伝統的な家族だが、彼女にとってここは自分の個性を押し殺さねばならない場所でしかない。また一見幸せそうに見える家庭の裏の面は、夜中電子レンジの前で虚ろな表情で座っている彼女の母親の姿に表れている。高卒の彼女にとって望む仕事を見つけることは容易でなく、結局家業を手伝うしかない。またピリュ(イ・ウンシル)とオンジョ(イ・ウンジュ)の母親は中国に、祖父母は仁川のチャイナタウンにいるが、祖父母と親の間には亀裂があるようだ。ただ、彼女たちはそういうことを苦にしないユーモアの感覚を身につけており、五人の会話を楽しいものにするのに一役買っている。
 またこの映画では様々な社会階層の人々が主人公たちとすれ違う。女性ホームレス、外国人労働者、工場で働く女性たち・・。もちろん五人の女性たちの職業も違う。ヘジュは証券会社に勤め、五人の中では一番経済的に恵まれていて優越感をもっているが、実は会社の中で高卒の彼女は上司が言うところの「雑用係」でしかない。テヒは実家のサウナの受付と雑用をしながら、韓国の外で生きることを夢見ている。双子姉妹は露天商、ジヨンはデザイナーを夢見つつも食堂で働いている。バラック小屋と証券会社のオフィス、このあまりに大きな落差の中にいながらも、五人の女性たちはなんとか手をつなぎ続けようとするのだが、その姿には胸を打たれる。
 五人の女優はそれぞれすばらしい。五人の関係をつなぎとめようと尽力するテヒ役のペ・ドゥナの魅力は言うまでもないが、両親を知らず、後には祖父母も失うことになるジヨン役のオク・ジヨンの孤独なたたずまい、特に線路脇を一人で歩くシーンなどは胸に迫るものがあり、だからこそそのそばにペ・ドゥナが寄り添って歩くシーンもまた美しい。
 学歴、そして親子と男尊女卑を中心にした親族関係、垂直軸に人を配置する制度が主人公たちを抑圧している。(チャイナタウン出身の露天商の双子はアウトサイダーであるがゆえにこの抑圧から幾分自由であるように見える。)親を持たないがゆえに韓国社会で苦労するジヨン、韓国の伝統的な家族関係の抑圧を常に感じているテヒが目指すべき場所は韓国の「外」しかない。外国人労働者や船員たちに親近感を覚えるテヒにとって理想的な運動とは、垂直軸から離脱し、あのすばらしい夢想シーンのように小船に横たわって水平方向にゆるやかに移動していくことだ。そしてこの映画自体、電車、バス、飛行機の水平方向への運動、主人公たちの地下街での疾走から子猫の歩行まで、幸福感あふれる運動に満ちている。垂直にそそり立つ証券会社のビルの中で消耗し、最後ゲームセンターで頼まれた仕事を放棄しゲームに熱中するヘジュの虚ろな表情に比べ、空港ですばらしいスローモーションで捉えられたテヒとジヨンの表情は決意を内に秘めた強さが感じられる。