ビッグ・フィッシュ 補遺

 アルバート・フィニーが語り、ユアン・マクレガーが演じるこのほら話の魅力はどこからくるのか。語り手の老人が息子の妻に語るときの、ぬけぬけとホラにホラを重ねる面白さ、そしてそれをうれしそうに聞いている彼女。そこには普通のホラ話にありがちな、小さい自分を大きく見せようとする必死の虚勢などどこにもない。実際、町を救ったという一番の自慢話になりそうな出来事を彼は息子に語っていない。若いときの自分を距離をとりながら語っていく時に出るおおらかなユーモア。そしてそのユーモアを体現するユアン・マクレガーの底抜けに楽天的な表情のすばらしさ。ファンタジーと現実感覚を絶妙のバランスで両立させているのは彼の表情である。そしてこれはもちろんこの二人の組み合わせを考え、演出した監督ティム・バートンの勝利である。

 迂回する物語。彼の物語は横道にそれることで面白くなっていく。町を出るときにふと横道にそれ、奇妙な町の人々と出会う。大男との旅はサーカスを経て婚約者へのプロポーズにつながっていく。戦地での活動は双生児との脱出行になる。雨の中を走っていた車はいつのまにか水底に出て、そして人魚と出会う。銀行で金を下ろすはずが、いつの間にか銀行強盗のパートナーになっている。ピラミッドのように積み重ねられ頂点に達するのではなく、ひたすら横へ横へそれていき、そしてそのつど物語は活気を帯びていく。そしてそういう物語を撮る為に必要なのはジャンルを横断することだが、森に迷い込むとゴシックホラー調になり、靴がぶら下がった町に出ると牧歌的な雰囲気が漂うなど、演出は変幻自在である。